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成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
見ると、ジェシンに二人の儒生がが絡みついていた。というより羽交い絞めにしていた。正確には、一人が背後から羽交い絞めにし、一人が腰にしがみついている。とにかく、屈強なジェシンが振り払えないほどに絡みついているのだ。
「今日こそはっ!」
「今回こそはっ!」
と叫ぶその二人。捕まえられているのはジェシンなのに、悲壮な様子なのは捕まえている方なのだ。滑稽で仕方がないのはヨンハだけで、他の同好会の仲間や傍らのユニにとっては、何が起こったのかわからないとでも言いたい出来事ではある。
「書いて・・・書いてもらうぞっ!」
「頼むっ・・・お前のが載るのと載らないのでは、格が違ってくるんだっ!」
ジェシンは億劫そうに腕を振り払おうともがくが、儒生二人も必死だ。どうもジェシンに乱暴をするための行動じゃないと踏んだユニ。恐る恐る何をしているのか尋ねる様子に、あの成均館に入りたての頃の怯えた子犬のような様子を思い出して、ヨンハは成長したなあ、と変なところで感心した。
「文集を出すんだよ。」
「成均館文集!」
定期的に成均館の儒生が書いた詩や散文を収めた文集を刊行しているという。この二人はその編集責任者だった。誰のでもいいわけではなく、やはり文章自慢というか、物書きが好きな者たちが寄稿して成り立つものでもあるし、また詩や文の上手を見つけて寄稿を依頼して書いてもらったりして作り上げる。それでどうしてジェシンに絡みついているのかというと。
「テムル?お前知らなかったのか?コロは成均館の誇る詩人だぞ?!」
「めったに書いたものが外に出ないから、たまに人目に映ると大騒ぎになるんだよ・・・もう一年以上書いてないだろ?ここで載せたい!評判をとるぜ、絶対・・・。」
作り手としては、やはり出来上がりの評判が気になるものらしい。だからこそ確実に皆が読みたいと思う書き手を選びたいと思うのも分かる。だからユニはびっくりした。こんなに、狙われて頼まれるぐらいジェシンが詩の上手だなんて、これっぽっちも知らなかったから。
「うるっせえ!そんな面倒なことするかよ。離せ!」
「死んでも離さない・・・書いてもらうまで俺はお前に縋り付く・・・。」
「気持ち悪いこと言うんじゃねえ!」
ジェシンが必死に見をよじっても、二人はしがみついている。よほどの覚悟を決めてとびかかったらしい。それにも感心するが、ユニはこのじたばたと暴れている男三人の状態より。
「詩・・・サヨンの詩・・・読んでみたい。」
とつぶやいてしまった。気にならないわけがない。ユニのことを助けてくれる先輩だけど、お酒を飲んで帰ってくるし、時々怖いぐらいに喧嘩っぱやい態度をとる。ヨリム先輩はしょっちゅう殴るし。そのサヨンが詩を書く、詩の上手?ユニが知っている詩は、隣国の有名どころの名作ぐらいだ。教養として知っていなければならないぐらいの者しか知らないし、形通りの作り方しか知らないから、堅苦しい漢詩しか、いわゆる名作を模倣したものしか作れない。他人に評価されるほどの詩が作れるなんて、とその才能が想像すらできない。
「あ?読んでみたいってか?なら、書いてやる。」
あっさりとそういったジェシンに、ユニは真ん丸の目を見開いた。ついでに絡みついている儒生二人も目を見開いた。でもジェシンから手は離さなかった。腹が据わっている。それぐらいジェシンへの依頼に必死なのだろう。
「おい・・・放せ。」
低いい声で言うジェシンに、羽交い絞めにしていた儒生は首を振った。
「離さねえとかけないだろうが。」
「その・・・その書いた詩を文集に載せてもいいか?!」
「シクに書いてやるって言ったんだ、シクに聞け。」
「テムルっ!コロが今から書く詩を俺たちに渡してくれないか?!」
「頼む!頼むよテムル!コロに頼んでくれよ!」
腰にしがみついている儒生も必死だった。ユニは早く詩を読んでみたいのと、儒生たちの必死さに、思わずうなずいて、サヨン、詩が読みたい、と頼んだ。するとジェシンは、おう、と気軽に返すものだから、しがみついている儒生は信じられなかったらしく一向に離れない。
「・・・書くから放せって。」
「本当に・・・本当に書くのか?」
「それを渡してくれるのか?」
「書くってったら書くんだよ!手を離さねえと筆も持てねえだろうが!」
ジェシンの怒鳴り声に、ようやく儒生二人はジェシンから手を離した。