虎みたいな人 その12 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 随分テムルが可愛いんだな、とからかうヨンハを、ジェシンはぎろりとにらんだだけだった。一人部屋を独占している(その理由は金の使い方にある、と本人は堂々と言うのだが)ヨンハのところに時折ジェシンがやってくるのはもはや習慣のようなもので、その時に部屋に隠し持っている酒が酌み交わされるのも習慣だ。その二人っきりの空間、ジェシンはわりに素直になる。それが親友だと思ってもらえている証拠の様で、ヨンハはちょっとうれしい。

 

 警戒心の強い猛獣のような男だ。味方だとわかっても威嚇する態度をとってしまう。それは、同室のソンジュンに対する態度でわかる。彼が成均館に入ってきた日から様々な出来事を共に過ごして、イ・ソンジュンという年齢並みのまっすぐな心根を知るごとに、ジェシンが派閥の敵対意識とイ・ソンジュンの父の存在に持っていた嫌悪感が薄れていき、ソンジュン本人に対しては案外信頼すら持っているようにもなってきた。部屋にいることを許容し、そればかりか同じく同室のユンシクの、成均館での弱い立場を守る共同戦線を張っているようにすら見える。それぐらい中二坊は上手くいっていた。それもこれも、中二坊を虎の巣穴のように一人で薄暗く閉じこもっていたこの猛獣が彼らを招き入れたからだ。縄張りどころか、巣穴にだ。

 

 それでも、彼らの前では出さない少々繊細な情緒を、ジェシンはヨンハの前だけで見せる。言葉にはしない。けち臭い男だ。言えば弱くなるとでも思っているのだろうか。そこが野生というか獣の本性を見せているようで面白くもあるのだが。

 

 ちょっとぐらい見せればいいのだ、と思う。少し心細いこと、とか、悩んでいること、とか。悲しかったこと、いやだったこと、そんなことを彼ら同室生に見せれば、話せば、もっとあの巣穴は快適になるのに、と思うのだが、それができないのが密林の奥に一人住み暮らしていた猛獣の性なのだろう。もうしばらくこの男の弱い部分を感じるのは俺だけの特権でいいか、とはヨンハの友人としてのちょっとした彼らへの対抗心ではある。

 

 あいつにだけは、友人どころか・・・他の部分でコロを持っていかれちゃうんだろうなあ。

 

 とは予測はしているが。ジェシンを成均館に居つかせるきっかけとなった小柄な儒生の姿を思い浮かべ、ちくりと言った言葉は図星だったのとジェシンの悩みの種そのものだったらしく、言い訳できないのがまるわかりの形相でにらんでくるのがおかしい。

 

 「もっと優しく扱ってやれよ~~。テムルはさあ・・・何というか華奢というか骨細というか柔らかいから、なんだか壊れそうに見えるんだよなあ。」

 

 「別に普通にしてるだろうが。殴っているわけじゃあるまいし。」

 

 「そうっ!そこだよ~。俺はさあ、なんだか何してもお前に殴られてるような気がするんだけどっ!」

 

 「てめえは殴られるようなことばかり言ってくるからだろうが・・・。」

 

 それに、と言いよどむジェシンに、ヨンハはにやりと笑う。

 

 「まあ、普通に、『男に』するように接してないとな。」

 

 またにらみつけてくるその目を見返してやった。ジェシンがどうしてキム・ユンシクという儒生が本当は女人なのだと知ったのかはわからない。それほど巧妙に、用心深くユンシクとして彼女はここにいた。どこからもぼろが出ないように。それでもヨンハは初日に疑いを持ったのだ。もしかして、と。それほど。

 

 それほど彼女は美しかった。男の姿に身をやつし、着ている道袍は古臭く誰かのおさがりだとまるわかり、足元は藁草履、貧相な弱弱しい体格で、目を惹くところなど何もなかった。けれどそれはただの一見だ。傍で眺めたらわかる。美しく整った肌理の肌。貧相に見えるのは男だと思っているからで、女人ならば骨細の華奢でたおやかな骨格だ。そして顔立ちは美しいとしか言いようがない。これで化粧でもしたら、傾国の美女の出来上がりじゃないかとヨンハは思った。首筋から香るのは柔らかな甘い匂い。男の汗臭い、脂臭い匂いじゃない。

 

 その美しい娘と一つ部屋で寝起きしているのだ。それも、女人と知らない時からなぜか気にかけてきた可愛い後輩だ。女人と知ってコロは。

 

 この猛獣は、その野生を押さえていられるわけがない。

 

 

 

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