㊟フォロワー様500名記念リクエスト。
成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニはずっと必死だったけれど、競射が終わるたびにその点数を見て驚いていた。ユニも今まで頑張って練習してきたから、的の点数の高い場所、なるべく中心近くには射れるようになっていたけれど、10点満点のうち、やっぱり6点とか7点の場所に当ててしまうことだってある。幸い5点以下はなかったけれど。でも、ソンジュンは9点か10点しか当てない。競技直前に右腕を打撲して利き手を左に変えているけれど、それでも的中率はすごい。
そしてもっとすごいのはジェシンだった。
10点しか出さない。常に的の真ん中、図星。そして速い。射る体勢に入るのも引き絞ってから射るのも、そして矢の速さもあっという間に的に矢が突き刺さっている気がするぐらい速い。ユニの射る矢はどうしても少し山なりになる。それで距離を稼ぎ、的の狙う位置をどうにか確定して今に至る。だが、ジェシンのは違う。まっすぐに的に向かう。ものすごい速さで。そして音が違う。ぽす、という音のユニの矢とは違うのだ。ドン、と的が震えるほどの重さを感じる。上手下手の違いが分からないユニにだってわかる。サヨンはすごく上手いんだ。
そして上手い人がいること、それも飛びぬけて、噂だけだった武術の腕前が目の前で披露されることに周囲が興奮していくのが分かる。雰囲気とは怖い。ユニたち中二坊組が射場に上がると、周囲の注目が一斉に集まる。期待の視線が一気にだ。最初はどちらかと言えばからかいの、憐みの、蔑みの視線だった。ユニが弓の初心者で、引くことすらできなかったのを皆知っているからだ。ようやく引き絞れるようになったのはユニの猛練習とそれに付き合ったソンジュンのおかげだとも皆知っている。だが、短期間で何ができるのだ、と少年時代から両班の子息の教養として弓を触る習慣があった儒生たちは舐めていたのだ。それがどうだ。確かに中二坊の三人立ではユニは一番下手だ。だがそのユニでもそれなりの得点をたたき出している。敗北した組のものは悔しがるが、仕方がないのだ。自分たちはユニよりも得点の低いところにしか矢を当てられなかったのだから。コロがいるから、カランがいるから、と言い訳をしても、個人でとった点数合計がユニに負けていて威張れるわけがない。もう自分たちが負けたことは横に置くしかなかったのだ。これから後は、中二坊組がどこまでやれるか、そしてユニが買った喧嘩の結果がどうなるか、つまり、西掌議ハ・インスの組との勝負に勝てるかどうかに興味が移り、そこに行くまでは中二坊組の弓の腕前を鑑賞することに会場自体が一体化していっていた。
「サヨン・・・はい。」
中休みの時間にふらりと消えたジェシンを探してユニがやってきたとき、植木の陰に座って少し前かがみになっていたジェシン。眠いのかな、とも思ったけれど、休憩するにせよ少しおなかに何か入れないと、と竹筒の水を持ってきたのだ。暑いし、競技が終わるまでは何も食べる時間などない。朝、競技直前にふらりと現れたジェシンが朝餉を食べているとも思えなかったし、少し顔色もいつもより悪い気もしていた。ずっと10点を射抜いていたけれど。
差し出された竹筒を、しばらく眺めてから受け取ったジェシンに、ユニは
「サヨン、ありがとうございます。」
とだけ言った。ほかに何も言えなかった。勝ち負けはまだ決まっていないけれど、ジェシンが来てくれなかったら勝負すらできなかったのだ。その場に立つことすら。今までと一緒。対等にその能力を競う場にすら出られない女人のユニにとって、お前に何ができるという扱いはうんざりだった。大きなことは望んでいないけれど、自分のできることを否定されるのはやはり気分が悪い。それも女人だというだけで。弟の名でここにいるわけだし、ユニはいずれ弟と交替せねばならない。けれど、それまではユニの場所だ、ここは。ここにいる権利を奪われそうになって戦うのは当然で、けれどその戦いの場にさえ立てないかと今朝まで怯えてもいた。
「・・・お前のためじゃねえ。」
にやりと笑うジェシンに、ユニは戦いの場を与えられたのだ。