㊟フォロワー様500名記念リクエスト。
成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ジェシンが反対するのは誰もがよくわかる心情だ。身内を、それもようやく胸のうちに飛び込んできてくれた大切な未来の妻を、危険な囮捜査の餌にぶら下げるなど、容認できるはずもない。ただ、内密に事を進める必要性と、そのために限られる情報を共有する人間の数、その中で動ける女人となると難しい。
ユニは大科に受かり、しばらく従事官として王宮で働いた。まもなく清に留学する、という時期にユンシクとその身を交代することができた。皆が知っている細くて子供のように見えるキム・ユンシク従事官はユニのことなのだ。しかし、留学が決まり、現在の役目を解かれて清国の言葉を学ぶための期間に入り、交替したのだ。そして武官として働いたジェシンも、文官に戻るためにこの留学に参加することを命じられていた。ただ、その少し前からこの人攫いの件が徐々に明るみに出て、ジェシンは清国語の勉強会にも参加できずに、逆に清国が関わるこの事件に走り回る羽目になっていた。すでに恒例の清国への通信使節団がかの国へ渡っている。国交問題にはしたくない。ただ、我が国の若者、子供が奴隷のように売られていくのを見過ごすわけにもいかないのだ。
最後の仕事。
その言葉がユニの胸に浮かんでいた。女人が存在してはならない場に、居る場所を黙って与えてくれた王。未熟ながらも必死に自らの持つ力を出して、働くことを許してもらえたその恩は、どんなことをしたって返せるものではない。その上、静かに弟との交替を見守り、その交替の適切な場と時間を与え、ユニが人の妻として、今度は女人として生きることを喜んでくださった王様。王様がお困りなら、私がお役に立つなら、ユニはそう思っていたのだ。できることはないと思っていたら、王様から頼まれた。その上、夫となるジェシンが主軸の捜査だというではないか。ユニが働かなくてどうするのだ。王様にご恩返しが少しでもできるこの機会を使わなくて、いつまたその機会があるというのだ。私はもう、ムン家の奥に入ってしまうのだから。
『サヨン、私を役立たずにしないで。』
『こんな危険なことは、役に立つ立たないという問題じゃあない。』
まるで二人だけの世界のように、見つめ合って話をする二人を、ただの置物と化したその場にいたものは聞いていた。
『危険だとは分かっていてお引き受けするの。危険だからこそ、私を見張って見失わないように人を配する手はずをしてくださるとおっしゃっているわ。私も身の危険を分かって行動します。決して無茶はしないし、本当に危険だと感じたら助けを求めます。それに・・・サヨンが必ず助けてくださるのを信じているからお引き受けできるのよ。私が誰を一番信じていると思っているの?サヨンよ。』
『それでも・・・俺が四六時中見張るわけじゃない。お前と家族のふりをするわけでもない。俺はまたあちらに戻らなくちゃならねえ。囮に奴らが上手く引っかかる・・・ってことはお前があのむかつく男に連れてこられるってことだろ・・・俺はその取引の場でお前を待つってことだ・・・そんなこと。』
『ええ。だから私は最後までその役をできると思うの。ちゃんとサヨンが最後に助けてくれるから。騙されて売られる、哀れな娘の役を演じ切るわ。サヨンが必ず来てくれるから、私はこのお役目をお引き受けする決断ができたの。本当よ。』
『くっそ・・・。』
ジェシンだって誰でもできる役目ではないと分かっているのだ。賢く分別があり、度胸もあるユニだからこそ王様が指名したことも。けれど、感情は納得できない。心配で怖くて。ユニがこれからは何の傷もつかない幸せな女人として生きていけるよう、そう誓った、誓えることのできた矢先に、ようやく婚儀が挙げられるとめどがついたその矢先にこの事件だ。
ジェシンの憎悪が、人さらいと、それにかかわった県令たちの悪行に一気に向かった。
人の悪い内官とパク隊長のにやにや笑いにしばらく赤面した後、ユニ嬢ははっきりと言った。
「勝負は取引の場だと承知しております。私のことはご心配なく。ご計画通りになさってください。」
凛とした、美しい娘だと私は思った。