人食いの里 その5 ~ある武官の覚書~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟フォロワー様500名記念リクエスト。

  成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 途切れ途切れに聞き取った内容は、ひどいものだった。

 

 国の若者を売る。売人の男は、売り物の若者たちを不審がらせずに取引のあの山小屋に連れて行かなければならないので、昼日中に街道をゆかなければならない。人目があるから噂になるのは当たり前だが、それを押さえるために県令たちをたらしこんだのだ。金で。どうせ生国でもろくな生活などできない奴らです、貧乏で、物乞いのような家の子供たちだ、いてもいなくても、そんな奴らですから金に変わるのなら恩の字じゃねえですか、そう言って取引が成立するたび金の包を置いていく。家族に渡している5年分の奉公の給金など、はした金だ。下働きのものの給金はとても安く、ただ、奉公している先で寝る場所と食事が出るから、貧しい家の親たちは話があれば子供をすぐに出す。そこに付け込んだのだ。酒を飲みながら、執事と金勘定をする県令は、金を貰う代わりに里長達に命じたのだ。噂になり始めた『人食いの村』のこと、時折現れる不審な男とその男に連れられて行く若者、娘、少年少女、そんなものは見ていない、なかったこと、口にすらのぼせるな。

 

 だが、内緒話でそんな話は潜み続けるし、例えば街道で通り過ぎる人足、商人の口まではふさげない。

 

 「証拠は金しかないんです、今のところ。短い時間で探せたのはそれだけで、証文一つありませんでした。あとは・・・取引の現場を押さえるしかない・・・。」

 

 山に行ったのは、もしかしたら現場を押さえられるかと思ったからだ。清の取引相手は逃しても構わない。捕まえたところで大国のごり押しで、何の罪の償いもさせることなく帰さねばならなくなるに決まっているからだ。ただ、売られる者たちを助けることと、我が国側の売人を、何人いるかわからないが一人でも捕らえられれば良かったのだ。だが、今回はもぬけの殻だった。おそらく売られた者がわずかに抵抗した跡が見つかっただけで。

 

 「くっそ・・・」

 

 行儀悪く寝ころんで天井を仰いだムン武官が、ただ単に売人を捕まえ損ねたことを悔やんでいるだけだと、その日の私は思っていた。

 

 

 「は・・・?」

 

 引き続き県令の方を探るムン武官に頼まれた報告をもって、私は一度都に戻った。報告を呼んだナム内官は、「これは・・・あの者を使うしかないか・・・。」とつぶやいて一旦王様の元に向かった。しばらくして戻ると、まじめな顔で大変なことを私に言った。

 

 「このような犯罪は証拠を残さないことが多いのは、過去の調べで分かっていたのだ。」

 

 都の娘たちが、清にかどわかされて売られていく事件は時折起こり、大きな話題になり娘たちとその親を怯えさせていた。若い娘は金になるのだ。ほとんどが体を売るところに売り飛ばされるのだが、見目がきれいだったり、たまにいい家の娘が捕らわれたりすると、清の金持ちの妾などに売られたりする。厳しく取り締まるが、定期的にこのような犯罪は起こる。そして証文も何もない人身売買は、現場を押さえて一網打尽するしか方法がないのだ。

 

 「この度は、最初は少年少女を奉公として連れていくことが多かったが、最近は若い娘が増えている。」

 

 そういえば、ムン武官が聞いた賭場に出入りしてた少年が連れていかれたときも、娘が一緒に行ったという話だった。

 

 「欲が出るのだな。子供より娘の方が高いのだ・・・。それで一つ・・・わなを仕掛けてある。」

 

 罠ですか、と聞き返した私に、内官はうなずいた。

 

 「賭場の近く、貧民街にある一家・・・本当の家族ではないのだが、家族として数人を住まわせた。お前たちが調べに入ってすぐだ。病の父親、働きのない弟、身を粉にして働いているのは姉娘一人という組み合わせだ・・・。その娘に囮になってもらう。」

 

 その娘の見張りをあらためて命ずる、と言った内官は、少し気の毒そうな顔で言ったものだ。

 

 「連れていかれることになっても、手は出すな、つけるだけだ。しっかりした娘ごだから、取り乱すこともしないだろうが・・・守り通さないとわれらが殺されるかもな・・・。」

 

 そして告げられたのは驚くべきことだった。

 

 「その娘ごは、ムン武官の婚約者だ。王様のご指名により任務に就くことになった。」

 

 名をキム・ユニという、と内官は重々しく言った。

 

 

 

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