㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
「・・・え・・・じゃあ・・・こんなところでしゃべってる場合じゃない・・・?!」
「大げさだぜ・・・俺は飯も食えねえのかよ・・・。」
「あ、そっか。」
いきなり慌てるユニに呆れた声を出して、助かってるんだぜ、と続けたので、何の自覚もないユニは目を丸くした。だって私、勉強何してるかわかんないよ?
「お前とよ、ここで会う約束、あるだろ。だから朝、ちゃんと起きる。」
予備校でも、とっているカリキュラムが終わった後、閉館まで自習室で勉強してから帰宅するのだ。帰宅してからもいつでも眠れる用意だけはして、自室で勉強を続ける。明け方、とは言わないが、それこそ夜が更け切ってふと漆黒の空気が揺れてそれが藍色に変わる、そんな時間まで静かな空気の中勉強を続けている。
だから朝、理由がないと起きられる自信はないから、というジェシンに、ユニは首を傾げた。
「理由って・・・私?」
「ほかに何があるってんだよ。」
ユニが朝からバイトに行って働いている、そう思うと体が覚醒する。寝とぼけているわけにはいかない、と。ユニと会うのは昼過ぎだから、朝から大学の図書館に行く必要はないのだ。だが。起きて、図書館が開く時間には大学に行って、研究室から借りだした過去問をコピーしたり、参考書を借りたりして図書館に居座り、昼まで取り組む。一時過ぎに切り上げて外に出、一服してから、夏季休暇とはいえ真昼には混む学食や購買に少しずれた時間に行き昼食と飲み物を買い、そして戻ってきて外でユニを待つのだ。その時に大概また一服。家では気管支の弱い母を思って吸わないから、この昼過ぎの一服はなかなか体に染みわたる。そしてとことことバイト終わりにやってくるユニを見つけて煙草を携帯灰皿に潰してしまうのだ。
「だからお前のおかげで勉強時間が増えてる。サンキュ。」
ほんと?と少しはにかんだように笑うユニが可愛い。うん、可愛い。自分のセリフはちょっとばかりこそばゆい。こんなこと生まれて初めて言った。いう気も機会もなかったから。ユニとしゃべっていると自然に出てしまう、いわゆる口説き文句。けれど本心だから仕方がない。ただ、ユニにストレートに響きすぎて、お礼はお礼として取られてしまうから、そこがどうも空振りになるけれど。
昼下がりの大学の構内は、休暇中ということもありちょっとした音や声がよく聞こえる。緑多い構内。芝生の敷かれた広場では寝ころぶ学生が何人もいて、サークルか体育会の活動帰りの数人が戯れながら歩いてくる。それをぼうっと見ながらしゃべっていた二人。
あっ!という大きな声が聞こえたとたん、ユニはジェシンに引っ張られ、抱きしめられた。一度、揺れた。う、というジェシンの小さなうめきも聞こえた。バタバタと駆け寄ってくる足音も。
「・・・すみません!手が滑って・・・あ・・・。」
ゆっくりとユニから離れたジェシンは、ふう、と大きな息をつくと、ユニをベンチに座らせてからゆらりと立ち上がった。ふら、と歩いて数歩。かがんだジェシンの手には野球のボール。
「てめえら・・・これ硬球だろうが・・・こんな道端で投げてんじゃねえ・・・。」
いってえんだよ、とそのボールを握った手をにらんでいた顔が上がった。
「け・・・けがは?!」
「あ?!肩に当たったんだいてえに決まってるだろうがこいつに当たってたらどうするつもりだった俺はでけえからいいがこんな華奢な女に当たったら骨が折れるだろうがお前らこの競技よ~く知ってるならやっていい場所考えろや!」
どすの効いた啖呵に、バットケースを肩に下げたりグローブをはめたまま歩いてきていたらしい5人の学生がすくみ上った。ジェシンは立ちすくむ学生たちにずかずかと近寄って、ボールを一人のグローブに叩き込むように渡した。
「あの・・・ムン・・・先輩っ・・・救護室へ・・・。」
「うるせえ、とっとと帰れ、道端でやっていい球技かどうか話し合いながらな!」
「でも冷やした方が・・・。」
そのとき、ジェシンの肘をそっとつかんだユニ。
「私が連れていきますから。」
掴んだ腕が震えていた。