㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
酒の力を借りるから夢はあまり見ない方だ。だが、傷が痛むとき、どこか覚醒しているのだろう。体が、頭が用心して。そんなときには夢を見てはいたが、最近その種類が変わった。
小さな怪我はいつものことだ。最近警戒が厳しくて追われることも多くなった。知らないうちにできていた切り傷、擦過傷、打撲。時には不意に放たれた矢や、珍しく足の速い捕り手が突き出した手槍に傷つけられることもある。
手当も自分でするし、衣服がどこかだらしなく傷んでいるのは常に同じだから誰にもばれはしない。ただ、傷を受けたその直後はさすがに少し隠れて体も気も落ち着かせようと一人になる。元から夜に怪我するんだ。次の日の講義をさぼるぐらいで治る傷。静かな誰も来ない建物の中で寝転がって過ごす。
眠りに落ちる前、想像したことが悪かったのだろう。とは言い訳した。どうせ夕刻に中二坊に帰ったらあいつ、シクが文句を言うんだろうな、と。もう、サヨン、どこ行ってたの、またお酒飲んでたの、講義終わっちゃったよちゃんと朝までに帰ってこなきゃダメでしょ、ああ服にお酒こぼしたんでしょ、匂いするよ、着替えないの?!多分一言一句間違わないという自信がある、と苦笑しながら寝たんだっけ。あいつの子犬みたいにきゃんきゃん騒ぐ様子を考えたら気がまぎれるんだ、そう思ったから。
だからだ。いてえ。傷じゃねえ。股間だよ。くっそ。朝だってこんなになりゃしねえのに。
見た夢ははっきりと覚えている。静かな夜だ。一人で歩いていくと、板塀の隙間から灯がちらちらとこぼれ出ている小さな建物がある。俺は確信を持った足取りで、だが足音は消して近づく。板塀の隙間を探して、一番中の様子がうかがえそうなところを見つけるんだ。すぐに見つかる。夢だから。そこから覗くんだ。
誰がいるか、なんて知っているのに。
誰が何をしているのか、も知っているのに。
そして案の定、淡い灯をともしてそこにあいつはいた。シクが。髪をほどき、白い肌をさらして。肩までしかない髪。ほどいたのは初めて見た。小さな灯の光でもそれは艶めいていた。黒々と。その髪を何度も手で梳いて、湯で濡らして、そしてシクはほほ笑んだ。それからその白い肩に湯を何度もかけ、手ぬぐいでそらした喉をぬぐい、手を伸ばして指先までその手ぬぐいを滑らせ。
そして俺は凝視しているんだ。目がそらせねえ。そらした喉をたどった下にあるもの。伸ばした腕の隙間からちらちらと見えるもの。湯気で微妙にかすみながらもその揺れが分かるもの。
白くやわらかなふくらみが見え隠れして俺の視線を奪う。そして俺の手が勝手に動くんだ。覗いていたところは扉の隙間。あんなちゃちな鍵、こぶしを二、三回当てりゃ壊れるんだが、やっぱり夢だ、都合よく開いていて。
近づく。足音なんか消してない。いつもの歩幅で、たったの数歩だ。なのにあいつは気づかないんだ。湯あみに夢中で。細い足をたらいの縁に載せて上半身を曲げてこすってやがる。白い背中が濡れて光る。笑い声が聞こえるんだ。気持ちいい、ふふ、はは、あいつの可愛い声で。だから俺は俺は手を伸ばして・・・
そこで目が覚めてこの状態だよ全く。ガッチガチじゃねえか。どうすんだよ。シクてめえ、お前のせいだ。何度目だよ・・・
くっそ、と昨夜負った二の腕の傷を巻いた布越しに抑えてやる。ぎゅうっと。いてえ。くっそ、まだいてえ。深くはないが、小心者の捕り方だったせいか手槍を振り回していたのでしっかりと切り傷になったのだ。結構血が出た。今も触らなくてもびりびりするのだが、仕方がないのだ、もう一つの方を収めなきゃ外にも出られねえ、押さえただけでは足りねえな、なんで自分で自分の傷をたたかねえとダメなんだよくっそ!シクの野郎!
いてえ。腕。血がまた出てねえか・・・押さえてりゃ大丈夫か。はあ。あの光景を見ちまったから・・・。あいつが女だと知っちまったから・・・。あいつが可愛い後輩だから・・・。そのせいだ。