㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「そなた、お堂でお話を伺って参りなされ。」
ユニが、自分がすると言ってきかないスンドリを従えて、粥を作るのに使った鉄鍋やスンドリが使った椀などの洗い物をしに井戸端に行き、それらを入れた桶をスンドリに取り上げられて帰ってきたところ、庵主が立って待っていた。
「・・・私がお会いしては・・・ならないお方なのです。ですから・・・。」
「いいえ。向き合って話をしてまいりなされ。そしてこちらに来る前に背を向けた過去を振り返ってきなされ。」
それはあまりにもむごいとユニは思った。過去を懺悔しながらユニは今まで仏の前に座っていたのだ。まだ穿り返せと言うのか、と胸元を押さえてしまう。
ユニの罪悪感は、成均館で男に身をやつしていたことにすべてが集約される。どちらかと言えば、ユンシクの名を騙っていたことはそれほど罪の意識はなかったのだ。それは法令を守っていないだとか、儒教の考えに反するだとかの方面での罪悪感はあまりなく、露見したときの罰の方の恐ろしさの方が勝っていただけだ。
成均館にいたとき、そしてその後一年弱の間官吏として王宮に勤めた間、男として存在していたユニ。そしてだまし続けたユニの大事な人たち。優しい先輩。楽しい先輩。ユニに親切にしてくれた人たち。そして。
大切な、この世にただ一人の親友。
その人たちを、ユニはだまし続けたのだ。その罪深さはユニの一生背負うべきもので、許されることではなかった。ユンシクの名を騙ったことは、厚かましいかもしれないが、生きるためにユニがとった死ぬこと以外の最終手段だったのだ。正直、露見すれば罪に問われるだけなのだ。周りの誰も死にはしない。家族を除いてだが。だが、ユニが女人であることは、友の、先輩のユニに対する信頼をすべて根底から覆す騙りであって、それこそ皆に軽蔑され、打ち据えられ、踏みつけられても文句も言えない罪だ。そう感じてユニはその時を生き続けていた。
だから、ユンシクと入れ替わったとき、そう、清に親友と、先輩たちと行くと決まったとき、すんなりと受け入れてくれた皆に驚いた。聞けば、皆ユニの正体を知っていたというではないか。だから驚き、そしてしばらくして恐怖した。
ユニが女人であったと知る人は数少ない。王様と、内官、尚宮一人ずつ、ユニを捕縛した武官二名、そして当時の右議政チェ・ジェゴン、ユニが女人だと王様に知られるきっかけとなった、今は処罰された当時の兵曹判書。そして、当時の左議政であった、イ・ジョンム。そう、ソンジュンの父親。
確かに少ない。そしてユニが女人であったことを知られると不都合である人たちだ。だが、人はわからない。裏切る、逆手にとることなど簡単にできる。もしユニの大切な先輩たちが、大事な親友が、ユニのことを知っていてかばったという事実のために、それを暴露され、貶められたら。ユニは生きるために必死でしたことだったが、誰にも迷惑は掛からないと高をくくっていたのに、気づけばたくさんの人に、それも大切に思えば思う人たちの足かせになりかねない存在であったのだという恐怖が襲い掛かってきたのだ。
王様にも勧められた。弟と共に清に行けと。行ってその間にすべてを弟に伝えよと。先輩たちも親友も言った。一緒に行こう。仲間じゃないか、と。けれどユニは、一人残される母のことを盾に、ここが引き際なのだと首を横に振り、短い期間で弟に必死に様々なことを教え込んで、送り出したのだ。
そして、さらに身を引ききってしまおうと。
なのに、今更、消したはずの過去に向き合わねばならぬのだろうか。そうならば、私はまだ皆の足枷のままだということなのだろうか。
「そなたの過去は、そなたのものではあるけれど、その時傍にいた人のものでもあるのですよ。それを忘れてはなりませぬ。それにお客人は心迷うておられます。御仏は、迷う方を放り捨てよとは申されておらぬはず。そうではありませんか。」
それに、あのお方の心を救えるのはそなたしかおりませんでしょうね、とは、あきらめたように本堂に向かったユニの背に、庵主が胸の中で呼びかけた言葉だった。