ROSE 旅 その20 ~ヨリユニパラレル~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 日の出は午前6時ごろ。ただ、山の間から出てくる地形なので、もう少し遅くなるかもしれない、とは旅館のフロントの男性が教えてくれた。写真の愛好家たちが良く撮りに来るので、日の出日の入りなどはチェックする癖がついていまして、と笑い、明日は冷えますので暖かくしてお出かけください、とのアドバイスまでくれた。

 

 確かに冷え冷えとした冷たい空気が地を覆っていた。二人が旅館から外出したのは6時より少し前。アドバイス通り、しっかりとコートを着て出てきたが、なかなかに冷気は鋭かった。

 

 だが、心地いい冷たさだった。それは日はまだ顔を覗かせていないが、空はすでに明るくなっており、その薄い光と川辺特有の白い靄の中に見える景色のせいだ。

 

 緑豊かな嵐山の里。その色合いが冬のものではない。薄緑に輝く新芽がすでに顔をのぞかせ、ちらほらと咲き始めた春の花が、そこは桜色、そこは白、そこは濃い桃色、そこは明るい黄色と華やかさを添えている。その生気が空気の冷えを染めているのだ。

 

 渡月橋には数人人がいた。川沿いの道にもカメラを構える人が見える。ゆっくりと橋に足を踏み入れ、ちょうど中ほどで東の空を仰ぎ見たユニとヨンハ。

 

 東山36峰と呼ばれる京都盆地を取り囲む山の峰の端が薄赤く染まっている。それがたちまちのうちに赤さを空に巻いたかと思うと、すう、と逆にその赤みが消えていき、そして山の端に黄金の光が輝いた。

 

 光の矢は空を染め、山を光らせ、そして川面に反射した。きらりきらりと流れが作る小さな波が明るく輝き、橋に光の筋が降り注ぐ。

 

 どこからか、吐息のような感嘆の声が上がった。だが言葉はない。言葉はいらなかった。光がそこにある生きとし生けるものすべてを遍く照らし、照らすのだと宣言し、そしてまるで何事もなかったかのように空は青く晴れ、ただの美しい空に戻った。日は完全に姿を現した途端、いつもそこにあるのだからと言わんばかりに静かにその日の始まりを告げている。

 

 そうありたい、と思った。私は当たり前のようにヨンハさんの傍にいる存在になりたい、そう思った。時に仕事に苦しむとき、時に人とのかかわりに悩むとき、何があるかはわからない人生だけれど、そんなときにあなたは大丈夫だと光を見せてあげられる、そんな存在になりたい。普段は当たり前のようにいて。

 

 まだヨンハにとってユニはようやく傍における特別になったばかり。ヨンハは時にユニがどこにもいかないかとでもいうように握る手に力を籠める。始まったばかりの二人の夫婦としての旅だから仕方がないのかもしれない。けれど、ヨンハの心の奥底にある、大事な人がそばにいてほしいという願い、それは早くに亡くした母、忙しい父との関係でできてしまった心の穴かもしれないが、もしそうならば、ユニは自分が少しでもその穴を埋めてやりたいのだ。そんな心配など、いつか忘れてしまえるように、ユニはヨンハと共に生きることを。

 

 日の光に祈った。あなたのように、私はなりたい。私の隣にいる、大切な夫の笑顔を照らせるようになりたい。私は何をすればいいか、どうしたらいいか、これからたくさん考えるから。あなたはそれを見ていてください。

 

 「ユニ、寒くないかい?乾かしたとはいえ、風呂上がりだもんね。」

 

 ユニの髪を撫でてヨンハが覗き込む。ユニは今朝も早起きして大浴場に浸かったのだ。そしてヨンハと共に朝日を見に出てきた。それを心配しているのだろう。

 

 でもユニの胸は温かだった。日の光はユニにも平等に光をくれ、照らし、生気を与えてくれた。そして隣に立ち、ユニの心配をしてくれるユニの太陽、ヨンハが心も温めてくれる。

 

 「寒くはないけれど、もう一度お風呂に浸かりたいわ。それからご飯を頂きましょ?」

 

 「そうだね、俺もあの気持ちいい大きなお風呂に、名残に入ってこよう!」

 

 嵐山は音がし始めた。見ると、家の前を掃く人々、どこかへ行く軽トラ、と人の営みが始まっている。電車の音も聞こえた。今日が始まっているのだ。

 

 そして、二人の今日も、また始まったのだった。

 

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