㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
そんなジェシンの心配は全くの杞憂に終わった。
「へえ!ヨリム先輩いきなりお父さんになったんだね!」
「そうですか、奥様はお亡くなりに。次の機会に霊前にご挨拶をさせてください。」
ユンシクとソンジュンは、二人並んでゴロンゴロンしている赤ん坊に驚きはしたものの、軽く紹介するとそう言ってその話はおしまいになった。かわるがわるアインとヨンシンを抱き上げ、ミニョンの赤ちゃんの時を思い出すやら月齢が違うだけで重さがだいぶ違うやらにぎやかだ。ミニョンは弟たち二人がどうしても心配らしく、抱き上げる様子を目を皿のようにして見張っている。
「そうだミニョンちゃん。昨日本屋に寄ったらね、きれいな絵本を見つけたんだよ。」
抱かれながらも偉そうにふんぞり返るアインとしばらくにらめっこしていたソンジュンが、アインをそっと布団の上に戻してミニョンを振り返った。アインは早速ゴロンと転がって、頭を持ち上げてにぎやかな周囲をきょろきょろと見ている。その隣にユンシクがヨンシンを下ろして、二人をいっぺんに構いだしたので、ミニョンは注意がソンジュンの方に集中した。
ソンジュンは兵役で髪も短くカットし、日に焼けて精悍な雰囲気になっている。けれど、物静かな様子は損なわれないらしく、ミニョンはほとんど忘れているぐらいの期間会っていないのに、ソンジュンを怖がる様子はなかった。ちなみにユンシクは、やはりユニに似ていることもあり、それに写真も多くあるので、ミニョンにとってはよく見ているような気分のおじさんのままだ。
「よほん?」
「そう絵本。ほら、お城が素敵なんだよ。」
紙袋から取り出した絵本は、いわゆる『飛び出す絵本』。ページを開くと立体的に絵柄が立ち上がるもの。お姫様と怪物の話であるその絵本は、めくるたびに、西洋の城郭が重々しく立ち上がり、怪物が黒々と盛り上がり、お姫様のドレスが膨らみ、山や川が目の前に迫ってくる。
「わあ!」
ミニョンは、ミニョンに向かって開いて見せていたソンジュンに駆け寄って、しゃがんでいたその膝に取り付いた。よほん、よむ!と膝を強請ってねだるミニョンは、その場に胡坐をかいたソンジュンの足の上に座り込み、一からページをめくるよう腕もゆする。
「・・・ミニョンちゃん・・・浮気だ。」
「しかしまあ、こんなちびでも、まともな男かどうかは直感でわかるんだな。」
「どういう意味だよ?!」
「そういう意味だよ。」
ジェシンとヨンハがくだらない言い合いを交わすのを、赤ん坊二人を相手するユンシクが笑いながら眺める。
「でも、チョソンさんが来れないのは残念だったな。」
「今日は仕事のスケジュールが一杯だったんだよ。実家の方に僕と行ってもらったり、二人で相談しなきゃいけないことが結構あって、三日も休ませたからさ。」
「お前の休暇が限られてるしな。」
「うん。無理させた。」
結婚に関しては、式などは申し訳ないがチョソンに丸投げになるとユンシクは言った。だが、結婚後住む家は、チョソンの父親が保証人になってくれたため購入が決まっているし、その分のお金もチョソンの口座に振り込んだそうだ。母との同居もすんなり決まり、逆に今しょっちゅうチョソンがユニとユンシクの母のところに行ってくれているから、聞くだけ野暮だったようだ。
「でもさ、式の規模なんかはある程度二人で決めたから、チョソニならうまくやってくれるよ。」
ふと目を上げると、テーブルの上に皿を並べながらユニが聞き耳を立てている。先にメールで聞いているくせに、とジェシンはおかしくなったが、それでも本人の声で聞くのとは実感が違うのだろう。
ユンシクは、本当に満足げに語った。この休暇が充実していた証拠だろう。それが分かるから、ユニがほほ笑んでいる。少しだけ切なそうに眼を潤ませて。
ムン家では母であるユニ。だが大事な弟を持つ一人の姉であるユニも、ジェシンが愛するユニだ。
ユンシクをかわいがるユニを見ていると、暖かく思い出すから。
兄を。もうジェシンよりも若くなってしまった兄を。それでも優しい思い出をたくさんジェシンにくれた兄を。
ユニは本当にたくさんのものをくれる。ジェシンはリビングに集う皆を見渡して、ほほ笑んだ。