㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
予想より大きく育っていたとはいえ、32週での出産は月満ちて、というわけにはいかない。大事をとって保育器で様子を見ることになったヨンハとジョンウンの赤ん坊は、それでもそっとジョンウンのいる特別室に連れていかれて、少しだけは出る母乳をもらっていると、続報でヨンハがジェシンに教えた。
初乳には子供のために必要な免疫成分が含まれているという。ジョンウンは自分の体調をよく知っていたから、この初乳だけはこだわって、必ず与えたいと頼んでいたようだった。その後は自分の産後の体のケアのためにミルクになっていい、と。そして二日ほど母乳を与えた後、やはり体力を落としていたジョンウンの母乳はほとんどでなくなった。
それでも一週間様子を見た赤ん坊ヨンシンは、自分の口からちゃんとミルクを飲む力もあり、消化器官も正常に動き、肺も心音も丈夫なようで、保育器から出された。母子同室にするにはジョンウンの体力が心配されたが、夜はヨンハの付き人であるトックの母親が付き添うことで、ジョンウンの願いは聞き届けられた。そして、ようやくジェシンとユニも見舞いに行けることになった。
アインは食欲旺盛な赤ん坊で、母乳がそこそこ出るユニでも足りない時があり、最近は昼過ぎの授乳はミルクをやるようになってきていた。だから、ミニョンとアインをジェシンの母とユニの母に頼んで、二人は病院へと向かった。
「たぶんたくさんご用意されていただろうけれど。」
と言いながらもユニが用意したのは赤ちゃん用の湯あみセットだった。大判のガーゼタオル、柔らかな仕上げふきタオル、小さな鼻や耳回りなどを優しく洗うためのガーゼのハンドタオルが数枚。爪を整える小さなハサミや綿棒、そして一緒にお風呂に持って入れる、力が出てくれば赤ちゃんでも握れるほどの大きさのタオル地のぬいぐるみ。風呂から出れば干しておけばいいのだ。ミニョンも使っていたし、アインは今まさに振り回している。
ふうわりと包まれたそのプレゼントを、ジョンウンはことのほか喜んだ。帝王切開なのでようやくおなかに力が入るようになったらしい。体を切るということは大変なことだ。だから、ではないが、ヨンシンの風呂は、部屋でベビーバスを使って行っているという。昼の温かな時間に、トックの母、皆がばあやさんと呼ぶ人と一緒に、ばあやが赤ちゃんをお湯につけ、ジョンウンがその体や頭を優しく洗うのだと嬉しそうに語った。
だが、その体は異様に痩せていた。産後一か月、産婦としての健診以外は拒否したジョンウン。けれど素人のジェシンやユニが見ても分かるその痩せ方の異常さに、本人が気づいていないわけもなく、おそらくどこかに痛みか何らかの感触があるはずなのに。
ジョンウンの顔は輝いていた。こんなによく飲むの、とちょうど腹がすいて泣いたヨンシンにミルクを与えている。新生児も新生児だし、少し早く生まれたヨンシンは、一回にまだ30CCほど飲むか飲まないかだ。だが、きゅうきゅうと音を立てる哺乳瓶の乳首に吸い付くヨンシンを、ジョンウンは蕩けるような笑顔で見つめている。
その日、ジェシンとユニはジョンウンの状態に目をつぶって、ただひたすらヨンシンをかまった。実際生まれたばかりなのに、ヨンシンはヨンハの坊ちゃま然とした様子の良さと、ジョンウンの強く生きてきた瞳の輝きを上手く受け継いで、かわいらしく元気な男の子だったのだ。退院したらアインと遊んでね、ミニョンお姉ちゃんが待ってるからね、と語りかけるユニを、ジョンウンは嬉しそうに見ていた。それが、ジョンウンを見た、最後だった。
一か月、ヨンシンと過ごしたジョンウン。
そして一か月健診で、胸と首筋にしこりがあること、倦怠感が強くなり、胸に関しては痛みもあること、そしてものを食べると喉が圧迫されて辛いことを医師に語ったジョンウンの状態は、その申告通りの場所すべてにがんが転移していた状態で、手術でも取り切ることもできず、首筋のしこりに関しては、放射線治療しかできないリンパ腫だと診断された。