午後 ジェシン | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

 (ソンジュンがユンシクが女人だと知って成均館に戻った後)

 

 暑すぎた夏が過ぎ、一度に秋の気配が忍び寄ってきていた。朝晩は霧が立ち込め、空気が冷えている。

 

 しばらくはここでもいけるな。

 

 とぼんやり意識を戻したジェシンは、東斎の縁側で寝ころんでいた。日当たりのいいところはまだまだ暖かい。午後の講義が終わって、一気に沈む秋の日が暮れる寸前までは、日当たりのいい縁側はいい昼寝の場所だ。

 

 最近ジェシンは朝からきちんと日に二回の講義に出席する。ちょうど眠気が襲うこの時刻、少し前まではジェシンは昼寝すらしなかった時期がある。

 

 初夏、偶然知ってしまった同室生の後輩の秘密。そしてその秘密を暴くことなく過ごさせてやろうとなぜかしら思ったおかげで、ジェシンは心配のあまり後輩と共にいることが増えた。普段はもう一人の同室生と一緒にいる後輩だが、そのもう一人の同室生が真夏の一時、成均館をやめるなどという馬鹿な行動をとったため、ジェシンが一緒にいざるを得なかったのだ。今はその馬鹿な同室生が戻ってきたために、ジェシンが付き添う時間は格段に減った。

 

 暇。

 

 なはずはないのだ。成均館儒生は本来学問に忙しいはず。その証拠に、後輩も、もう一人の同室生も、今日の講義の課題、明日の講義の準備のために本を探しに尊敬閣に行っている。そして帰ってきたら小机に向かって本を広げ始めるのだ。ご苦労なこった、と他人事のように思っているジェシンだって成均館儒生だというのに。

 

 少しばかり拗ねている自分がいるのは自覚している。後輩、ユンシクは、夏に同室生で親友のソンジュンが何も言わずに成均館をやめたことを悲しみ落ち込んでいた。それに、柄にもなく寄り添ったのはジェシンだ。少しばかり年長故、なんとなくソンジュンの気持ちも感づいていたし、ユンシクの落ち込む姿を見て、ユンシクが信頼し好意を寄せていたソンジュンの存在を再認識させられたものだ。だからこれも感づいている。

 

 イ・ソンジュンは、シクの秘密、あいつが女人であることを知って戻ってきやがったんだ。

 

 ゴロンと転がり姿勢を変えた。顔を片腕で覆った。喜ぶべきことだ、と思いたい。あんなにソンジュンの不在に悲しんだユンシクが、今輝くような笑顔で成均館で過ごせていることに。最初は反発していたソンジュンの存在が、実は同室生として過ごすうちにどこか同調するところがあり、いるのが当たり前になっていた日常が再び戻ってきたことに。それが、好きな女を取り合う関係だったとしても、だ。

 

 自分が女人を気にかける日が来るとは思っていなかった。ユンシクが女人だと知った日から、混乱し、対処に悩み、それでも彼のたどったつらい人生と照らし合わせて彼に必要なことなのだと飲み込み、そしてその秘密を守ってやろうと決めてから。いや、その前から。

 

 ユンシクという人をかわいいと思ってしまっていたのだから仕方がないのだけれど。

 

 あいつはやはりイ・ソンジュンがいいんだろう。初めて心を許した相手だろうし。それにいい男だ。見目も、頭も。品もいい。俺とは大違いだ。イ・ソンジュンだってあいつを、シクを憎からず思ってる。だからこそ成均館を離れようとしたんだ。シクが男だと思っていたから。男色の罪にシクを堕とすと思っていたから。だがシク、お前と共に生きることが・・・できると知ったから。

 

 ジェシンは腕の下の目をぎゅっとつぶった。

 浮かぶ自分の欲望。望み。俺だって。俺だって。お前と共に生きたい。生きちゃだめなのか。俺じゃ物足りないか。落第儒生はいやか。あんなに様子のいい生活などできる性格じゃない。背格好はまあいけるか。武術も負ける気はしないが、お前は学問ができる男が好きだよな、お前がよくできるやつなだけに。

 

 

 「サヨンサヨン・・・そろそろ冷えるよ、起きてよ。」

 

 そんな埒もないことを考えている間に眠ってしまっていたのだろう。優しく揺すられ、愛しい声が聞こえてジェシンは目を開けた。空は赤く染まっていて、まもなく日が暮れることを知らせている。そしてその赤い光に頬を光らせたユンシクが、目覚めたジェシンの目の前で笑っていた。

 

 「もうすぐ夕餉だよ。僕おなかすいた!」

 

 無邪気にジェシンの肩のあたりに触れ、まだゆすり続けるユンシク。わかったわかった、とのっそりと起き上がり、そのつややかな髪をまとった頭をポンポンと叩いても、嫌がらずにジェシンを見上げて笑う、その笑顔に。

 

 希望は捨てなくていいのだろうか、俺を先輩として慕ってくれるこの気持ちが、いつか男として慕ってくれるようになるだろうか。

 

 そう思ってしまう自分の心にふたをして、ジェシンは立ち上がる。

 

 「行くんだろ、飯。」

 

 まだしばらくは先輩でいてやらないといけないから。男同士の。それが、好きな女人を守る、一番の方法だから。

 

 

 

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