朝 ヨンハ | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

   (ユニが成均館に馴染んだころ。手射礼の前ぐらい)

 

 ヨンハは案外ちゃんと起きる男だ。無駄に早起きはしないけれど、起寝(キチム)の合図ですんなり起き上がるし、支度だってすぐにする。ただ、朝に強いわけではないので多少頭はぼんやりしているが。

 

 しかし、今のヨンハには楽しみがある。洗面に出てくる中二坊の後輩、ユンシクのねおきのすがたを見ることだ。残念なことに、他の儒生の誰よりもちゃんと着るものを着て出てくるが。あれで襟の一つでも緩んでいたら、などと思っているのは、多分ヨンハだけだ。

 

 もうずいぶん仲良くなって、ユンシクのまじめさやかわいらしさにほだされてから詮索はしなくなったが、ヨンハは彼に対して一つの疑惑、いや疑惑から導き出した確信を持っている。

 

 おそらく、いや絶対にテムルは女人だ。

 

 それはユンシクが成均館にやってきた初日に、あまりにもきれいな顔で細っこい体だったのでちょいとからかいついでに抱きしめてみた感触から感じたことでもあるし、毎日の彼の様子から判じたことでもある。絶対に入らない風呂。厠ですら一緒になったことがない。いつもきっちりと上まで締まっている襟元、中二坊に押しかけても、足袋すら脱いでいない様子、寝る寸前に部屋を覗けば、他の二人は肌着姿なのに対して、単衣を脱がず足袋も履いたままで寝る習慣。肌を見せないためとしか思えないその態度。

 

 ヨンハは、朝、人が最も無防備なのを知っている。だからユンシクが隙を見せないか、と観察するのが癖になってきている。今のところ、服装はきちんとしてからしか出てこないし、言ったら髪の毛すら整えているようだから大したものだ、素晴らしい用心具合だ、と感心しているぐらいだ。

 

 そしてそれに安心している自分がいるもの自覚している。

 

 それぐらい用心していてくれないと困るのだ。成均館は女人禁制の儒学の場だ。進士食堂の賄の下女だけだ、ここに出入りできるのは。万が一ユンシクの秘密が日の光の下にさらされればどうなるか。前例などないのでヨンハにはわからないが、いい方に事態が転がるなど想像すらつかないほどこの国ではありえないことだ。

 

 でも、ユンシクの女人であるところも見てみたい。

 

 それはヨンハの願望だ。なぜなら。

 

 ユンシクはとても美しい儒生だ。小科の合格発表、放榜礼で二位という素晴らしい成績をとったとき、無名の少年の快挙に喜んだ王様が、その容貌を見てさらに感嘆した話は、ユンシクが成均館に来ることに決まったときにすでに知れ渡っていた。

 

 『緑髪紅顔(ノッピンホンアン)』

 

 そう少年の容姿をほめたたえた王様。当然将来を期待された壮元のイ・ソンジュンへの期待の言葉と共に大げさに話は広がり、王様の気に入りとして皆の注目を良くも悪くも浴びてしまったユンシク。ヨンハだって最初はそれほどでもないだろうと高をくくっていたのに。

 

 見た瞬間に思った。美しい。これは、美しい。そして。

 

 この美しさは、男のものではない、と。

 

 女好きの名のもとに抱きしめたその体は確かに見た目通り細く、その骨の細さはやはり男のものとも思えず、何よりも髪や首筋から立ち上る香りが甘かった。

 

 

 大きく伸びをしながら扉を開ける。眩しい朝日を浴びて目を細めながらついと横に顔を向けると、中二坊の扉も開いたところだった。先に出てきたのはソンジュン。すでにしゃっきりと起きた顔をしている。そして続いてユンシク。桶を二つ持っている。もう一人の同室生、ヨンハの悪友のジェシンのものを持たされているのだ。

 

 今日もユンシクはきちんと着替え終わっていた。それを見て安心する。うん、さわやかにかわいらしい。元気な少年、ってところだな。そう思いながら桶の水で顔を濡らす。どすどすと重い足音に、ジェシンが出てきたことが分かってくすりと笑いが漏れた。あの悪友もこのかわいらしい後輩に弱い。毎朝こうやって起こされて出てくる。いいなあ、と一瞬思った自分に驚いて慌てて手ぬぐいで顔をぬぐった。起き抜けで仏頂面のジェシンを見てからかってやろう、そんな風に自分の胸の内をごまかそうとしたのだけれど。

 

 見てしまった。ぬれた白い額に、頬に、張り付いたおくれ毛。日の光に輝く白い頬と黒々と艶のある一筋二筋の髪の相反する輝きがあまりにも色っぽくて。

 

 バシャバシャともう一度顔に水をかけるヨンハに、どうした、目が覚めないか、と近くの儒生が笑っている。

 

 目は覚めている。ただ他の気持ちも覚醒しつつあることを、ヨンハは気づきたくないだけなのだ。

 

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