㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「・・・あいつ、隠してたな。」
「・・・意図的、ですね。」
「隠してたも何も、見せびらかすものじゃないし、姉上は。」
「い~や。あいつはすぐに自慢するやつだ。誂えたばかりの道袍だって、笠にぶらぶらぶら下げた珍しい石の飾りだって、だいたい、何人もの妓生を侍らせてるところだって自慢して見せびらかす奴だぜ。」
「そうですね。艶本だって新作を見せびらかしてましたよね。」
「だから、姉上は見せびらかすようなものじゃないから。」
ユンシクが困り顔で座っている。胡坐をかいたジェシンと、端正に座ったソンジュンは、姿は対照的だが言っていることは非常に息があっている。
ユンシクを含め三人は、荷自体が少ない。当座の着替えぐらいしか持ち込んできていないのだ。ジェシンやソンジュンは、必要なものや足りないものなどすぐにとりに帰れる距離だし、ユンシクだって毎日何かがなければ困るようなものは特にない。荷をあてがわれた部屋に置けばそれで引っ越しは完了したも同然なのだが、自分の部屋にユニを引きずり込んだヨンハは、いまだに居間に帰ってこない。そしてどんがらがらと大騒ぎしている音が聞こえてくる。トック爺のぼやく声も。
ユンシクたちが着く前に屋敷に入っていたソンジュンとジェシンは、馬に荷を担がせてきたヨンハを見て口を開けたのだ。何をそんなに、という顔を見て得意げに笑ったヨンハは、官服だけでも5着あるからな!と、馬の背の行李の中身がすべて衣装だとそれこそ自慢して部屋に運ばせていたのだ。しわにならないようにかけておくんだ、と息巻いていたが、小売りの中から着物を出すばっかりで積み上げていただけだった。そこまでは呆れて様子を見ていた二人は知っている。
ユンシクの訪なう声に、それこそこれ幸いとその場を離れたのだ。見ていても男の衣装など珍しくもなんともないし、手伝わされるのも面倒だ。二人とも自分の身の回りのことは最低限出来るように成均館時代になっているが、人の世話まではしないのだ。特にヨンハの世話は。
出迎えに向かった通路の先にはユンシク。来たか、とジェシンが片手を上げかけたときに、その後ろから現れた人影。少しユンシクより低い背。けれど、ユンシク本人がいなければ、その人が女人の服を着ていなければ、一瞬間違えそうになるほど既視感のある容貌。
ジェシンとソンジュンが固まるのも無理はなかった。そして同じくユンシクの声を聴いて、テムルなら手伝ってくれるっ!と騒ぎながら追いかけてきたヨンハにも予想外の人物だったらしく、弾むような足音が停まった。
とりあえず、ユニに飛びついたヨンハのせいで皆動きが元に戻り、あとから息を切らしながら現れたトック爺がぺこぺことユニに謝りながらヨンハと、ヨンハにつかまりっぱなしのユニを引きずって部屋に連れて行った。ユンシクは置いてきぼりを食らったが、ソンジュンが、隣の部屋が空いてるんだ、とユンシクに部屋を教えたのでそこに荷を置き、居間にとりあえず集合したのだ。そののち下女が到着し、茶を入れてくれた。そして今はヨンハの部屋に行っている。おそらくヨンハの荷を整理する手伝いに行ったのだろう。とにかくヨンハの部屋からは、トック爺の説教する声と、ヨンハのわあわあ騒ぐ声しか聞こえてはこない。
ユンシクはわかっていない顔だが、ジェシンとソンジュンにはヨンハの魂胆がはっきりと見て取れた。
ユンシクの姉、ユニの顔を見て。
当然顔を見ただけだ。ユニの性格などわかりはしない。いや、ユンシクが慕うしっかり者の女人、という印象は持っていたから全く知らないわけではないが。だが、よく似た容貌の姉弟が立ち並ぶ姿は本当に美しく、薄暗い玄関先が花が咲いたように明るく浮き上がって見えた。
隠したかったのだ、とすぐに分かった。取られたくない宝物のように。誰にも。それこそ仲間で、親友の二人にも。それぐらい大切で、子供のような独占欲が渦巻いたのだと。
あいつにそんな執着が。執着するものができるとは。
特に驚いていたのはジェシンだった。ヨンハは、贅沢に育ったために物に飽きるのも早いし、特に人との関係に固執した姿は見たことがなかったのだから。