同室生の姉上 ジェシン編 その190 ~成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 そんなキム家の様子をムン家が知らないわけはなかった。求婚書をキム家に遣わせる日は、それこそ初登庁前の休暇中の一日に良き日があったために急遽決まった。その日のために、前もって連絡したのだ。祝いの行事には体調を整えるためという理由ですべて出ないユンシクだが、何の用事ができて外出するかもしれないし、やはりキム家の娘を貰うための手続きなのだから、ユニたちの母だけでなく一応若い当主のユンシクがいなければ様にならない。

 

 その遣いが帰ってきたときに報告したのだ。何やら祝い客があった。奥様が応対しておられて、大変そうだった、と。

 

 「・・・感づかれたろう・・・。」

 

 「おそらく・・・。」

 

 ジェシンと父は似ている顔を同じようにゆがめた。

 

 もちろん、ムン家の遣いの者は、先の訪問者のいるところに横入りもしないし、客がいる前で自らの遣いの内容を漏らしはしなかった。けれど見るからにきちんとしつけされているどこかの屋敷の下人で、何やら重要そうな書状を持っているのだ。帰るふりをしてこっそり聞いていたかもしれないし、聞いていなくても憶測は勝手にしゃべるかもしれない。

 

 別に知られて悪いことではない。婚儀だ、めでたいことだ。だが、ここに派閥違いの弊害が顔を出してくる。

 

 ムン家はいい。文句を言ってくる者はいるだろう。けれど退ければいいし、それも簡単だ。ムン家は大抵の家よりも勢力があるからだ。だから、逆が怖い。

 

 キム家に矛先が向く。南人はたいして何もしないだろうが、小論の愚かな家の者が何か要らぬことをしそうな気がする。いや、する者はいるに違いない、と父子は踏んでいる。

 

 「・・・母に結納の日取りを聞いてまいれ・・・そこまでが勝負か。」

 

 「聞いては参りますがどうされるおつもりで?父上が一言余計なことをするなとくぎを刺してくださればよいのでは。」

 

 父は派閥の中で重鎮だ。その言葉は重い。

 

 「こと縁談に関しては、あきらめきれない欲を押さえない奴は多い。一回の婚儀で数十年の楽が約束される場合だってあるのだぞ。」

 

 一番は王の後宮に入ることだ。勿論正妃になるのが一番だが、大体は幼い世子の時に妃選びが行われる。今の王も妃を娶ったのはわずか10歳ばかりの時だった。かといってほかの娘に機会がないわけではない。世継ぎの必要な身である王。子は多ければ多いほどいい。正妃が子に恵まれなければ、次々に側室が選ばれる。そして世継ぎの男子を生んだものが、その側室を出した家が勝つのだ。

 

 「しかし、成均館ではすでに俺の相手がシクの姉だとは周知の事実です。誰からも文句は出なかった。」

 

 「親は違うんだ。お前も思い知ったろうが。」

 

 隠していたわけではないから知っているものも多かった。ジェシンのものすごく人を選ぶ優しさを知っている者たちは、ユンシクの姉だからコロの相手ができるのだろうと察していた。それぐらいジェシンは乱暴者の印象が残っていたし、その不愛想さはもって生まれたもので万人に親しみを持たせるものではなかったから。

 

 だが、家のこと、己の出世しか考えないものにとってはどうでもいいのだ。ムン家の外戚という立場が必要だから。おそらく知っているはずなのに、祝いを言いながら実はうちには年頃の娘が、親戚に気立てのいい娘が、と何度聞いただろう。それは、まだ婚儀もあげていない、婚儀の準備も始まっていないと知っているからだ。せっかく大科にいい成績でお通りになったのだから、もっといいお立場の家との縁も大切なのでは、ともっともらしい顔で説教してくる年寄りだっていたのだ。

 

 だが、今回の遣いで婚儀に向けてムン家が実際に動いていると知ったら。

 

 「馬鹿者は必ずいる。ようやくお前が身を固める気になったのに、それに横やりを入れられて面倒なことになるのはごめんだ。儂は孫の顔が見たい。手を打つ。」

 

 とにかく母に日取りを聞いてまいれ、とせかす父に軽く頭を下げて、ジェシンは急いで内棟へと向かった。

 

 

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