㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「・・・何を泣く・・・泣くことなんか何にもねえだろ。」
拗ねたようにジェシンが言う。わかっている、わかっています、でもね、ジェシン様。
「・・・うれしい時も涙は出ます・・・。」
ユニはそう言い返した。すると、そうか、とまた頬を掻くのだから、この目の前の大男は。
ジェシンがそばに来て寄り添って、ユニは気づいた。酒の香りがすることに。そう言えば、放榜礼の後には祝いの宴が催されるとユンシクから聞いていて、だからこそのこの帰宅時間なのだ。
王宮で酒がふるまわれるほどの祝い事なのだ、大科に合格するということは。泣いて喜んでいいではないか、とユニは開き直って、そうすると逆に涙は引っ込んで笑顔が自然にこぼれた。
「うん。うれしくて泣いてくれるのもいいが、やっぱり笑っててくれ。」
ジェシンもは、と息を吐いて笑い、ユニの肩を軽く抱いた。
「お母上にご挨拶に行きたい。大科の報告と、それから・・・。」
そういえばジェシンは最初に、ユニの母に何か願いがあるようなことを言っていた。だからユニは聞いてみたら。
「おお・・・。いや・・・。まあ・・・。合格したしよ・・・もう我慢する必要もねえだろ・・・早く俺のところに嫁に来いよ・・・ってことをお母上にお許しいただけたらと思ってよ・・・。」
直接来ちまった、とまた頬を掻くジェシン。それを聞いて、ユニは真っ赤になった。
うれしいけれど、そう言ってくれるのは、望んでくれるのは。けれど、まだ話が合意しただけで、何の手順も進んでいない話。ジェシンの言う通り、大科が終わり結果が出るまでの我慢ではあったが、それこそ本人が飛んでくるとは。
もじもじしたユニを半ば引きずるようにして庭に入り、玄関に向かったジェシン。開け放してあった扉の向こうには、すでにユニの母の姿があった。傍にユンシクもいる。二人が入ってくるのを待っていたのだろう。
普通に挨拶し、とにかく中へと居間に落ち着いたジェシンは、姿勢を正して大科の件を報告した。自らの成績が三位であり、官位も正七品と定まった官吏となったこと。ムン家の面目も立て、一人の稼ぎある両班としてユニを迎えることができる男になったのだ。
ユニにはボロボロと普段の言葉で本音を漏らしたジェシンだったが、同じ内容を、別人のような言葉づかいでユニの母に願ったのはそのすぐ後だった。
「勿論、婚約の申し込みをムン家から正式に出し、結納も経ての婚儀へと進めます。ただ・・・私としては・・・。」
それまでは、口下手なわりにすらすらと言葉を連ねていたジェシンが初めて口ごもった。そして一旦飲み込んだ言葉を整理したのか、さらに姿勢を正してユニの母に言った。
「早くそばにユニ殿を置きたい・・・と願っています。みっともないとお思いになるかもしれませんが、大科が終わってユニ殿と会えると思ったら、我慢が切れてしまいました、申し訳ありません。ですから、婚儀までのすべてのことを、最も早い日取りで進めさせていただくよう、お許しを願えますでしょうか。」
ユニの母は、ジェシンに合格の祝いを述べた後、性急に切り出されたその願いに直接は応えず、まず、今日のことをムン家の両親に報告したのかを尋ねた。
父は放榜礼の場にいて、その上声もかけに来ている。そして、母には馬をとりに帰ったときにちゃんと報告したとジェシンは応えた。それに安堵したのか、ようやくユニの母はジェシンの願いに答えを述べた。
「ユニも嫁ぐには遅いぐらいの年回りですから、早いことに何ら反対はいたしません。ただ・・・。」
母はその後の言葉をきっぱりと告げた。
「ただ、きちんと日を四柱で占い、日取りの良い日をきちんとしていただきたいのです。急げば急ぐほど、本来するべきことをきちんとして嫁に出せれば、あの時こうすれば、ああすれば、と悔やむことは出てこないでしょうし、周りにも何も言われないで済みます。お若い方にとっては面倒なことかもしれませんが・・・すべてをきちんと整えたい親の気持ち、これを守っていただけるなら、いくらでも早い日取りで結構ですよ。」
ユニの母の言うことを忘れないように、ジェシンは何度か胸のうちで反芻し、そしてしっかりと承った印に平伏して返答に変えた。