同室生の姉上 ジェシン編 その179 ~成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 昔話と言っても、あなたは弟御にお聞きになっているかもしれませんね、我がムン家の最大の不幸が起こったときの話です。

 

 ええ、ジェシンの兄が・・・あの寺で私が後生を祈っているヨンシンが、派閥争いに巻き込まれて・・・流罪となり流刑地で弱かった体をさらに弱らせて亡くなってしまった、その後の話です。

 

 ヨンシンはなんの罪もなく、それは全員が知っていて、けれどなぜか連座させられたのです。その讒言の中心人物が、老論のある人でした。そして、私はあの子が流罪になったときから悲しみで何もできなくなり、なくなったと聞いた後はもう・・・。その間、ジェシンの様子など見てやれる余裕などなかったのです。

 

 夫は激怒し、けれどその怒りを腹の底に沈めてムン家の存続を選びました。しかし、その前にはやはり叫んでいたの、仇の名を。その仇の中に、イ家の名がありました・・・。息子を無実の罪に陥れた人物が腰巾着のようにイ家にまとわりつき、それがその人をかばっているように見えたのでしょう。夫にとって、イ家も呪うべき対象でしたよ。

 

 ジェシンにとって兄であるヨンシンは、優しい兄弟であり、尊敬すべき儒生であったようです。だからあの子も悲しんだ・・・そして怒ったのです。兄の敵を討たない父親を、悲しんでばかりで役に立たない母親を、老論に敵わない小論という派閥を、力のない自分を。そしてその怒りは・・・本来の敵にも向かいました。勿論一番は老論という派閥に対してですが、その象徴ともいうべき重鎮のイ家のお方と、イ家にまとわりついている本来の敵とに。けれど、あの子は子供・・・。

 

 ちょうど同じ年頃のご子息がおられるのも偶然ジェシンの対抗心に火をつけたのでしょう。あちらのご子息は幼いころから評判が高かったのです、神童、と。ジェシンもそこそこ頭はよかったようですが、私にはよくわかりませんからね、それでも小科で壮元だったと聞いたときには、私もうれしかったですよ。あの子の怒りや闘争心が、勉学で競う方に傾いてくれた、そう思ったものです。

 

 派閥が違えば通う学堂も違います。しゃべったこともないイ家のご子息と競うのもおかしな話ですが、少年にはそれぐらいしか比べることがないですからね。少し年かさの分、先に成均館に入っただけではあるんです。けれどね・・・そこからジェシンは崩れました。良からぬところに出入りし、酒を飲み、喧嘩をし・・・そして儒生としての責務を放り出しました。私には理由が分かりませんでしたよ・・・夫も困っておりました。けれど、一度だけ言ったことがあります。

 

 何をしたって、何も変わらないんですよ、母上。

 

 私には変わらず優しい息子でしたよ。けれどそういった時のジェシンの目は暗かった・・・。そして私は相変わらず何もできない母親でした。

 

 それがね、ユニ様。あなたの弟御が成均館でジェシンと同室になり、イ家のご子息も同室で、という驚くべきお話を聞いてから、ジェシンはどんどん変わっていきました。父親である夫も母親である私も救ってやれなかったあの子のあの暗い目が、会いに帰ってくれるたびに澄んでいくのが分かりました。弟御のお名前もよく聞きましたよ・・・手がかかるんだ、でもまあ頑張ってるから、みたいにぼそりと言い訳しながら。そして聞こえてきたあの子の儒生としての復活・・・。

 

 夫もね、認めたくはないのでしょうが、イ家のご子息の影響は否定できないのですよ。ジェシンは真っ当に競う相手があの方だったのです。イ・ソンジュン様と競い、儒生として正しく学ぶことを思い出したのです。あなたの弟御のまじめさもあったようですね。本当にありがたいこと。

 

 何もかもが消えたわけではないのでしょう。派閥だって歴然としてありますから。けれどね、ジェシン達が変えられることがあるのではないかと思うのですよ。私たちができなかったことを、成均館で敵同士の息子たちがやってのけているんですからね。

 

 役に立たない親としては、情けなく寂しいだけですが・・・けれどこうやって最も対等な戦いをする相手がいること、ジェシンは幸せ者ですよ。

 

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