㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
成均館高校は進学校として名門だ。だから、部活動も三年生を前に引退して受験勉強に専念する者も多い。スポーツ推薦なども行っていないから、運動部の大会で上位に入賞したりする者は陸上や格闘技などの個人種目がほとんどだった。
カン先生とユニ先生が指導する男子バレー部は、この秋の『新人戦』で地区大会準優勝と言う快挙を成し遂げた。決勝では常勝の私立高校に敗れたがフルセットのなかなかに見ごたえある試合で、学校は興奮に沸き立った。バレーを含む球技はチームが複数人なので、やはり各クラスに関係者がいると身近に感じるのだろう。今年は二年と一年がバランスよく人数がいて、他の強豪校に比べたら貧弱ながらも補欠が数人出るぐらいの余裕がある。練習も試合でも、人が多いとにぎやかでいい、とカン先生は一人うなずいていた。
いつまでも浮かれてはいられないぞ、と大いに結果を喜んだあと、それでも最後に負けた悔しさを忘れないよう皆で誓い、改めて練習メニューを見直しながら進もう、と士気を高めていた大会後最初の土曜日。午前練だが午後二時ぐらいまで他の予定を入れないよう念を押されて、腹減るよなあ、とぼやきながらも汗を滴るほど流して熱心に練習をした部員たち。
土曜日だからかギャラリーも出没しない。自分が担当する部活動がある先生もいるし、大体土曜日には学校にこない先生もいる。それに今、ギャラリーのお目当てのユニ先生が体育館にいない。マネージャーも給水やタオルなどの準備をしてから忙しそうにどこかに行ってしまった。カン先生と男ばかり十数人でのむさくるしい練習は、午前11時半に集合が掛かって終わった。
「よっし!お疲れさん!」
カン先生は練習の講評と次からの新たな目標を告げた後、そう締めてから明るく破顔した。
「じゃ、片付けろ~。マネージャーたちが片付けやすいようにスクイズボトルや洗い物はそこの籠にきれいに入れてやれ。んで、終わったらちょっと皆で移動するから、荷物は部室において鍵をかけてこい。」
時々、視聴覚室で試合の録画を見て相手チームの研究をしたり技術やルールの座学をすることもある。今日もそうなんだろうか、腹減ってるから早く終わったらいいなあ、そう思いながらネットやボールを片付け、モップを掛けて皆でした片付け。
部室から皆が出てくるのを渡り廊下で待っていてくれたカン先生は、ずんずんと校舎の中に入っていく。ぞろぞろと従いながら、専門教室が固まってある第三棟に向かうのを見て、やっぱり視聴覚室か、と思っていたら、三階までいかずに二階でカン先生は曲がった。
と同時に漂ってくるいい匂い。ご飯が炊ける匂いと、スパイスの効いた、唾液の湧いてくる香りに、「腹減った・・・」と一人がひもじそうにつぶやくと、カン先生が振り向いて大口を開けて笑った。
「ほら、そこのドア、開けてみろ。」
教室名は「調理室」。まさかまさかまさか。
「「「「わっ!!!」」」
ドアを開けて皆で歓声を上げた。そこには大鍋の前にいるユニ先生と紙皿を並べているマネージャーたち。机の上には揚げたてのチキンが山盛りの皿が三つ。チヂミの皿はあちこちにたくさん。サラダはまんべんなくと思ったのか小さな紙ボウルに一人一皿か。そしてユニ先生が混ぜている鍋からはカレーのいい匂い!
「おら!各々皿に自分で飯を盛れ~!ユニ先生がカレーを入れてくれるから!」
「「「「「うぃ~~っす!!!」」」」
争うようにマネージャーたちから皿を受け取り、山盛りに炊飯器からご飯を盛って、具たっぷりのカレーがユニ先生の笑顔と共にon。コップに差してある箸とスプーンを待ちきれんばかりに握りしめて座ったら、さあいただきます!
「短期間で新しいチームでよく頑張った!また一から頑張る前に、ユニ先生がお祝いだって作ってくれたんだぞ~~!」
礼を言え礼を、と言うカン先生を遮って、ユニ先生が笑う。
「材料を買ってくれたのも、校長先生たちに許可を得てくださったのもカン先生ですからね、お礼はカン先生に言ってね。」
「「「「カン先生、ユニ先生、ありがとうございますっ!!」」」」
皆で立ち上がって頭を下げ、もういいから食え、と照れたカン先生の言葉に、歓声を上げてがっつき始めた部員たち。カレーはおかわりあるし、今からポテトも揚げるからね、とユニ先生は油を熱し始めて笑った。
みんな知っているけど知らんぷり。ドアが細めにあいて、恨みがましい視線がいくつか。多分あの先生とあの先生。もしかしたらもう一人二人。だけど知らんぷり。
あとで聞いたところによると、その日は絶対に邪魔しに行っちゃダメだって、養護のキム先生がきつ~く言い渡してあったそうだ、あの先生たちに。