同室生の姉上 ジェシン編 その143 ~成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 秋が深まるころ、ジェシンは悩んでいた。

 

 ユニの月二回の貸本屋詣での付き添いについてだ。

 男装で、それもその着替えを人気のない朽ちかけた水車小屋で行うという危険な行動をしていたユニのために、ジェシンはずっと送迎をしてきた。ここ二回ほどは、ユニの母にあいさつをしたこともあり、きちんと家の前まで送り届けて安心して成均館に駆け戻るようになった。

 

 だが、ジェシンはやらねばならないことがある。学問だ。大科が年明けに迫る中、ジェシン達受験組は講堂に夜三々五々集まり、小机に向かって夜更けまで本と対峙する生活になった。時間がない。学んでも学んでも、さらに学ばなければならないことが湧き出てくる。科挙はその者が持つ知識を駆使して、与えられた問いを論じる。知識が多いものが勝つのだ。適切な文言、例、過去の同じような問題に過去の聖賢たちが何を論じ提言したかを織り交ぜて回答しなければならない。適切な言葉は、言葉を知らなければ選べないし、言葉の意味、裏を知らなければうわべだけの回答となり論文に深みが出ない。採点者の記憶に残らないのだ。

 

 ジェシンは尊敬閣の書物をほぼすべて読破している。講義に出る気になれず、毎日盛り場に行くのも、もとはそれほどそういう場所が好きなわけではないために、逆に静かに書物に没頭できる書庫に閉じこもるという生活をしていた。むさぼるように読んだ数々の書籍、解説書。自分の知る儒学の精神に、自分の胸の内の混乱の回答を求めてただ読み漁った。答えはいまだにわからない。その秀でた頭脳は、書籍の題名を聞いただけで内容をはじき出すほどには読み込み、可愛い後輩が解説書を選ぶときに助言できるほどだったが、それが今、全く役に立たないことを知った。やり直しだ。毎日の講義、大科への勉強、時間は有限だ。

 

 付き添いをしないという選択肢はないのだ。ユニの家から都にある貸本屋は遠い。街道には様々な人間が行き交うし、そんな中をユニに一人で歩かせること自体が嫌だ。ジェシンが付き添うまで無事だったことが奇跡のように思える。だが、ジェシンにはやらねばならないことがもう一つできて、それはユニとの将来に直結している。

 

 父と約束したことは果たすつもりだが、それほど気負ってはいなかった。それこそ実の親子だというところだろう。甘えがあるのだ。だが、ジェシンはユニの母に宣言してしまった。誓ってしまったのだ。

 

 大科に受かる。誰にも文句を言わせない席次で。その一点をもってユニとの婚約を許してほしい。

 

 ますます時間は少なく感じる。だが、ユニが貸本屋の仕事を辞めるとは思えない。ユンシクは、大科のために少し絞りはしたが、今だ部屋で筆写の仕事を続けている。自分のためではなく家のためにだ。ヨンハが求婚書などの高額な仕事をあっせんするよう貸本屋に耳打ちしたため、最近は仕事量は減っても懐に入る金は多くなってきている。それでもユンシクは仕事を途切れさせないし、だからこそユニだって仕事を続けるだろう。

 

 ユンシク、ユニにとって、金が入る当てがある、ということへの安心感は何物にも代えがたいのだ。それはジェシンのような恵まれた生活をしてきた者にはわからない恐怖を常に彼らが感じていたためであり、ジェシンに理解力がないわけではない。重きを置くところが違うのだ。ユニたちは生活への安心、ジェシンはユニの身の安心。その違いだ。

 

 「蓄えは少しあるし・・・僕は直前までは必ず仕事をしますから、姉上には手をお引きくださいと言ってるんですけど・・・。」

 

 サヨンからも少し強く言ってください、とジェシンにとって一番難しいことを要求する後輩の頭を小突いておいて、それでも、とジェシンは頭をひねった。

 

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