㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「余が仲立ちしてやろうかの?」
「それはご辞退申し上げます。」
即座に断ったソンジュンに、王様はご不満の目を向けた。
「余が相談相手では不満か?」
そういうわけではございません、とソンジュンはかしこまった。かしこまりついでにヨンハをにらんでおいた。ジェシンは、面倒くさそうにはしているが、ソンジュンの浮いた話に興味はがぜんそそられたようだし、ユンシクはジェシンの陰から心配そうに顔を出している。
「小臣にとって・・・今一番の壁は相手の・・・小臣の家に対する怯えであり、その一番の対象は父でございます。」
ここで、相手がキム・ユンシクの姉であるとぶちまけてもよいだろうか、とすこしばかり誘惑が胸に浮かんだ。
ソンジュンにとって、成均館に入るまでは、自分の心情を人に話すことは習慣ではなかった。今もそうではあるのだが、ただこの一年を通して、話すことができる相手ができてしまったのだ。学問の面、生活の面、一人で悩んできた派閥の重鎮である父との思想の相違の件、思い描く理想、そんなことを話し合える友人を成均館で初めて持った。最初は、ソンジュンのことを敵視していたはずだったジェシンでさえ、共に生活するにつれ、ソンジュンの正義感を認め、ぽろりとこぼれる不満や不安を笑い飛ばしたり冷やかしたりしながらも話を聞いてくれるという関係までになった。知り合ってすぐに友人になったユンシクは言うまでもなく。のらりくらりとつかみどころのなかったヨンハだって、初めて父のやり方に疑問を持つ自分の心をこぼしてしまった居酒屋からの帰り道で、肩をたたかれ励まされてからはどこか気を許してしまってここまで来た。そして話した後、胸にあった重みや詰まりが軽減されていることに気づいた。楽になったのだ。その気持ちよさは手放せない。
ユニのことを話し、手助けを乞うことは悪いことではない、そう思う。悪いことではないが最善の策か、と考えたとき、ぶちまける方向性はいったん閉じた。だが、王様の興味はまだ終わっていない。それに、いきなりとはいえヨンハがせっかく王様がソンジュンの恋を知るという機会を投げ与えてくれたようなものだ。いずれ力を貸していただくためにも、現状は説明しておくのが良い、そう思えてきた。
「小臣は・・・女人に関してはあまり関心がある方ではなく・・・だからこそ一目見て心をつかまれたその一人の令嬢が特別なのだと思うのです・・・そのご令嬢でなければ、小臣は婚儀すら必要ない人生を送ってしまいそうで。小臣の心持はよくわかっていただいていると思います。ですがご令嬢にとって、わが家の立ち位置は想像できない大きさがあるようなのです。それに、派閥違いに関しては、父がいい顔をしないのは小臣もよくわかっておりますから。ですから、ただいま父に小臣のねがいを認めさせるための下ごしらえをしているところなのでございます。王様・・・お願いが。」
ふむ、と腕組みをして聞いていた王様は、ソンジュンが父のことを語るときにうんうんとうなずいていた。理解できるソンジュンの父の様子があるのだろう。特にイ家は老論という派閥の中でも最高に近い重要な位置を占めている。他の家の範にならない行動は、息子だって避けなければならないと考えていることは明白だ。
「今は父に何を言っても話も聞いてもらえないことになるかと思います。ですので、小臣は自らを鍛え磨き、大科をもって父に認めさせる所存でございます。その時に・・・王様に祝いのお言葉を・・・小臣が手に入れようとしている縁を王様がお喜びくださっているということをお示しくだされば・・・小臣は勇気をもってすべてに立ち向かえます。」
どうか今は、と平伏したソンジュンを、王様は初めて見る男のような表情で、驚きを浮かべて眺めていた。