守ってやる ~ジェシン編~ | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 そこそこ遅い時間なのに、繁華街はまだ雑踏と言っていいほどの人が行きかってる。

 

 少し前までは、自分も酒に酔って歩いていた道だった。今日も少し酔ってはいる。だが、気持ちいい酒だった。久しぶりに、長く通ったテコンドー道場の先輩たちと飲んだのだ。道場に再び顔を出すようになったのは、大学も二回生になってからだろうか。少しばかり自分の行く先に迷って自堕落にしていたジェシンを、ブランクなぞなかったかのように自然に受け入れ、なまった体と精神を鍛えなおす手伝いをしてくれた。すでに酒の味も十分知っていたジェシンだったが、何を知っているのか勘なのか、ジェシンが自分の意思を固めたことを見透かしたように、楽しい宴の仲間に誘ってくれたのが今日。

 

 ジェシンは大学の三回生だ。本当は四回生の年齢だが、さぼりにさぼった一回生の時期のせいで、三回生に一度上がれなかった。いわゆる留年だ。それはわかっていたことだが、ようやくエンジンのかかったジェシンにとってなくてはならない時間だったと今は思っている。テコンドー道場の仲間は一言もジェシンの境遇に触れずに、楽しく今のジェシンを認めてくれていた。本当にいい人たちだと、別れてから楽しかった時間をかみしめながら、乗るバスの時間を思い出してひょいと路地に入った。近道をしようと思ったのだ。

 

 バスの通り道は、繁華街から二筋ほど離れている。少々暗い道でも、通り抜けたほうが早いことをジェシンは知っていた。体も大きく、たいていはすれ違う相手がジェシンを怖がることも知っていた。別に威嚇はしないが、ガタイがいい男というのは、暗がりではシルエットだけでも怖いらしい。失礼な、と思いながらも、ひょい、と路地を一つ抜け、一筋違うだけで全然人の流れの違う道路を突っ切り、もう一筋向こうへと続く路地に曲がったところで、先の方に人が数人いるのを見つけた。

 

 狭いのに何してやがる。

 

 面倒くさい、と思ったのも一瞬だった。聞こえたのだ、声が。

 

 「放してください!」

 

 男の声だった。ただの男の声なら、面倒だが通行人として警察に電話するぞ、ぐらいは協力してやるつもりだった。だが、ジェシンは一瞬立ち止まった後猛然と走った。

 

 暗がりで見えたのは三人の男、と。

 

 囲まれているジェシンの後輩とその後ろにかばわれている女性らしい人影だった。

 

 「だからさ、ぶつかったわびの金がないなら、ちょっとそのお姉さんを貸してくれたらいいじゃんか、って言ってんだよ。」

 

 「君は帰れるぜ~。デートは終わったんだろ?次に俺たちにお姉さんを貸してくれたっていいだ・・・っ!」

 

 最後まで脅しの言葉を言い切れなかった男は顔をゆがめて振り向いた。壁に手をついて二人を動けないようにしていたのに、その手をつかまれてひねりあげられたのだ。ぐるんと回されて背の真ん中で決められた技に、肩も手首もミシミシと音がするようで、脅しの言葉が途中から悲鳴に変わった。

 

 「・・・先輩!」

 

 「ようシク・・・なに夜遊びしてんだよ・・・だからこんなバカに因縁付けられんだよ。」

 

 放せ!いてえいてえ、と叫ぶ男をぶら下げたまま、黒い大きな塊のように立つジェシンを、暗がりの中でも後輩は見分けたらしい。残りの二人の男は、仲間の叫びようにじりじりと後ずさりしている。

 

 「どうする?こいつを締め落としてから、あの二人もボコるか?三人全部サツに連れていくか?それとも面倒だから、こいつ一人だけ引きずってくか?」

 

 「いや、俺たちは、ちょっとぶつかったから、話をしてただけで・・・。」

 

 「てめえには言ってねえ。」

 

 ぎりぎりとひねった腕をさらにひねる。悲鳴がまた上がった。

 

 「見ろよ、お前の仲間は薄情だな・・・。何歩下がった?お前を見捨てて逃げる気だぜ・・・付き合う相手を間違えたよなあ・・・。」

 

 ごめんなさい、もうしねえよ悪かった許してくれ。後じさりながら言う仲間に向かって、ジェシンはひねりあげていた腕を離して背中を突き飛ばした。三人は絡まるようにして倒れ、起き上がると必死に逃げていく。

 

 手をぱんぱんと払って、壁際で踏ん張っていた後輩を振り返ったジェシン。後輩はキム・ユンシクという。人付き合いの悪いジェシンが珍しく最初からかわいがっているサークルの一回生で、まじめな生活ぶりにこんな時間に外にいるとは意外だった。まあ、彼女がいるんならそうなるか、と勝手にジェシンが思っていたところ。

 

 「先輩!ありがとう!たすか『大学の先輩なの?私にもお礼を言わせて?』」

 

 ユンシクの言葉を遮って聞こえた声に、ジェシンは大通りから流れ込む街灯の光で言葉の主を透かし見た。

 

 ユンシクの陰から出てきた女性。黒髪を赤いカチューシャで上げているせいで、白い顔が明かりに浮かび上がった。印象的なのは黒々と光る大きな瞳。ジェシンの後輩とそっくりな輝き。

 

 初めまして、キム・ユニ、ユンシクの姉です。助けてくださってありがとうございました。

 

 

 ああ。守らなきゃならねえのが増えたな。

 

 ジェシンの胸の高鳴りが、そうジェシンに教えていた。

 

 

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