同室生の姉上 ヨンハ編 その153 ~成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 「・・・待て・・・待ってくれ。誤解がある。」

 

 夜中だ。ほぼ怒り狂っているジェシンですら声は小さかった。内容も内容、だからだろうが。大声を出して取っ組み合っても良かったのだろうが、一番知られたくないのが話題の中心にいるユンシクだ。部屋は隣。起こしたくないのだろう。

 

 お優しい先輩だこと。

 

 と妙に冷静に感想を頭に浮かべたヨンハは、胸ぐらを掴まれたままため息をついた。

 

 「コロ・・・俺と何年の付き合いだよ・・・俺が、自分の利にならない事に熱心に首を突っ込むと思うか?」

 

 あ?とそこらのチンピラよりも荒く喉を鳴らしたジェシンは、それでも胸ぐらを掴んだ手を離した。その勢いで、腰が浮いていたヨンハは尻餅をつき、いていて、と腰をさするも、ジェシンはそっぽを向いてしらん振りをしている。

 

 「利、とはなんですか、先輩。何を考えてたんですか?」

 

 代わりに焦ったようにソンジュンが口を出した。その口調もいつもの落ち着き払ったものではなく、ヨンハがなにやら企んでいたのではないかと疑っていたのがありありと分かる。

 

 「利は利だよ。俺の得になるかどうか。つまり、テムルの姉上殿と思われる男装の女人を見つけたとき、俺がその事実を利用できるかどうか、ってことだよ。どうだ?あるか?」

 

 ジェシンはそっぽを向いたまま、そしてソンジュンは考え込んでいた。

 

 「テムルが俺に敵対している関係だったら、これはこれはと利用したよ。だが、テムルは俺の可愛い後輩だった。それにカラン、お前の所のように世の中に力を発揮できる家ではなし、コロの親父様のように俺達を取り締まる役職の家の子でもなし。利用できる事なんてどこにあるんだ?」

 

 ヨンハは胸元を直した。すでに寝衣であるから、胸の合わせを整え、引っ張られた裾を下にさげるだけだった。ジェシンもソンジュンも布団に入る直前の格好だ。つまり肌着の上に単衣一枚。なんとも男所帯らしい、と話の内容とは裏腹なだらしなさに笑いがこみ上げそうになるのをヨンハは我慢した。ここで笑えば、絶対にジェシンに殴られるから。

 

 「興味は持ったさ。好奇心は一気に首をもたげた。だが、すぐに思い浮かんだのは危険だ、という感覚だ。名を騙って仕事をしている事、女人が男装していること、一人で歩き回っていること、そして仕事の内容。全部がテムルに跳ね返ってくる。せっかく何もかもが上手く行きかけているのに、テムルの評判を落しかねない家族の行動だ、と思ったんだ。」

 

 俺に利はない。だが、俺の後輩には不利益がある。そうそろばんをはじいたのだ、と。

 

 「もちろん・・・テムルによく似ているから、そのお美しさを見たいという興味は否定しない。だが、真っ先にテムルに関わる危険性を諭さなけりゃならない、そう思ったのが正直なところだ。俺なら多少は噂を消すことができる。お前達だってそうだろ?お前達の不利益はお父上様達の不利益だ。黙ってはおられないさ。だが、テムルは違う。テムル一人が不利益を被り、誰も助けてはやれない。」

 

 ここが二人を説得する潮目だとヨンハは腹に力を込めた。

 

 「だから人を使って貸本屋に来る日を調べて話をする機会を窺った。で・・・仕事の件は、出歩くのは説得して止められたけど、辞めさせられなかった。あの方の、生活への不安を聞くと、止められるものではなかったよ・・・。其れが本当にきっかけだ。ただ・・・。」

 

 うん、と一人頷くヨンハを、とりあえずの怒りを解いたらしいジェシンとソンジュンが不審げに眺めている。これは言わないけど、とヨンハは思う。お前達には分からない。どれだけユニ殿が金を必要としていたか、金を怖がっていたか。それは、金を稼ぎ、金を自分の為以外に使ったものでないと分からない。

 

 「あの方の価値観が俺の胸に刺さった・・・。話をしてみたくなったんだ、その後も・・・。だからちょいと頑張ったんだ、会うために。会えばまたあの方の良いところを知った・・・。で。」

 

 テムルに土下座して頼んだんだ、姉上殿を頂きたいって。

 

 正面の二人の、呆けたような顔に、ヨンハはにっこりと笑って見せた。

 

 

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