同室生の姉上 ジェシン編 その121 ~成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 グンスが自室に帰ってからしたことは、机の引き出しから小冊子を出すことだった。

 

 其れはグンスのみが見るもので、そこには人の名が頁をめくる毎に書いてあるものだ。そしてグンスは、比較的新しく加えられた頁を睨むように眺めている。

 

 グンスにとって、当然政敵は老論の連中である。そちらは老論専用の冊子がある。もちろん、自分が代々所属している小論の家を網羅した冊子もある。それらは派閥を纏める立場にいる者としては公然のものであるが、今グンスがもっているものは違う。

 古い部分には、亡き長男の学友や出仕したときの同榜の戸籍の写し、出入りの商人の出自を調査したもの、そして新しくはジェシンの交友関係だ。その最も新しい場所に、キム・ユンシクの名があった。

 

 正直、調べただけで綴じたまま忘れていたような頁だった。もちろんジェシン達の噂は把握している。少し前までは聞きたくないような事の方が多かった。博打場で悪い輩との付き合いが酷い、とか、喧嘩沙汰を起こした、とか、成均館にいるのに講義に出ない不忠ものだとか。けれど今は違う。

 まず、成均館の『花の四人衆』としてもてはやされているのが一番だろう。見目良し、家柄良し、そして何よりも成均館に入る事のできる優秀な頭脳を持つ、華やかな四人組。家柄良しは少々盛っているが。一人は小派閥の南人で、その中でも赤貧の出身だし、一人は両班になりたての無派閥の商家の出身だ。しかし、老論のイ・ソンジュンと小論のムン・ジェシンがその家柄の良さを補ってあまりあるので誰も何も言わない。

 そして、王様の覚えがめでたいことでも目立ち始めている。王様は若い優秀な頭脳を待ち望んでいる。朝廷の重臣達に阻まれて高い地位に自分の子飼いのものをなかなか揃えられないのだが、ソンジュンやジェシンなどは、能力的にも家柄的にも王様のおそばに呼ばれるのが確実な立場にいるのだ。それも評判を取り始めている。

 その上、今、成均館で壮元争いをしているのがこの二人。そして二人の背を追うように、キム・ユンシクも常に上位にいるらしいし、ク・ヨンハも同様だ。

 

 ジェシンの友人が、全て他派閥というのは気に入らない。特に老論の政敵イ・ジョンムの息子イ・ソンジュンと行動を共にしている、どころが同室で過ごしているなどとんでもない話なのだが、彼らと交わるようになってジェシンが落ち着いたのは確かなのだ。中でもよく聞くのが、南人のキム・ユンシクを舎弟のように可愛がっているという噂だ。最初は調べる気もなかったのだが、あまりにもジェシンと対の噂を聞くので、調べさせたのだ。戸籍を写し取ってこさせ、眺めたところで何が分かるわけではなかったが。はっきりしたのは、キム・ユンシクがすでに戸籍の筆頭だということだけだ。父親は早世し、元々小さな家が貧しさに落ちぶれていたのだろう、と簡単に予想がつくぐらい。居住地は南山谷。本貫は安東。南人の儒者を多く出す地域の出身だ。噂では大層な美少年で、小科もイ・ソンジュンに次ぐ次席の成績で通ったという優秀さ。真面目で、ジェシンと違って講義に出てきちんと儒生として生活していると報告があったので、グンスは結構安心して放っておいたのだ。弱小派閥の小せがれ一人をジェシンが手下にしたって何の害もないだろう、位の認識だった。

 

 改めて眺めると、確かにある。戸籍の中にある、金氏允熙(ゆに)。生年はユンシクよりも一年前。

 

 妻がジェシンの婚儀の相手と指名してきたのがこの娘の名だった。正直なところ、少し困っている。本音では、両班であればどんな家の娘でも良かったのだ、グンスは。ジェシンがごねずに婚儀を受け入れれば、だ。荒くれのままのジェシンだったら、逆に今悩まなかった。其れこそ、ジェシンを怖がって誰も娘を差し出そうとしないぐらいだったのだから。けれど、今は少々話が違っている。ジェシンの株がかなり上がっているのだ。ジェシンがこの娘を受け入れても、小論の者が文句を言ってくるだろうと予想がつく。しかし、ジェシンにへそを曲げられても面倒だ。こちらは最悪当主の権限で勝手に進められるとしても、やはりグンスにとって一番の問題は。

 

 妻が相当この娘を推している、ということなのだ。

 

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