同室生の姉上 ジェシン編 その120 ~成均館異聞~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ムン家の当主ムン・グンスは激情型で有名だ。一方で朝廷の重臣をそつなくこなす賢さも持っている。少々短気だが、それは例えば敵対派閥の気に入らない相手に対する態度だとか、例えば不始末をした息子をしかり飛ばすときだとかに限られている。それに、グンスは妻を大切にする男でも有名だった。

 

 それなりの家格の両班になると、一つは跡継ぎを残すためという理由で花妻、つまり妾が公然と許される。当然、自分が年齢を重ねると同様に年をとっていく正妻に変わる閨の相手に、という場合が多いが。もともと家同士で決めた相手と婚儀を挙げるから、子を成しある程度の夫婦と当主の義務が達成されれば、好みの娘と楽しくやりたい、という者の方が多いだろう。

 

 ムン・グンスは、13才で妻と婚儀を挙げ、数年後に第一子を、そして10年近く離れて第二子を授かった。その第二子がジェシンだ。第一子である長男が非業の死を遂げてからはジェシンがたった一人の跡継ぎとなってもう何年も経つ。少々身体の弱かった長男は、成均館から大科を経て出仕するまで婚約すらしなかった。其れは彼の意志だった。自分の身体の弱さを自覚していた長男は、仕事に慣れ、心身共に落ち着いたら必ず、と約束していたし、誠実な長男を信じていたから無理も言わなかった。それが長男の死によって全てが無茶苦茶になったのだ。後悔したグンスは、息子を亡くして閉じこもりきりになった妻を労りながら、残ったジェシンには早く婚儀を挙げさせようと一時必死になったのだが。

 

 ジェシンは兄の死後、生活が荒れた。非常に優秀な頭脳と恵まれた体躯を持つジェシンですら、兄の死を消化できず、世の理不尽さに覚えた怒りをどこにも持って行けず、体中で反発するしかなかったのだ。荒れたジェシンに娘を嫁がせたいという者は、よほどの出世欲にまみれた同派閥の下っ端の家の者だけだった。それでも良いかとジェシンに見合いを言いつければ、行方はくらますし、時には食ってかかってきてつかみ合いになった。その度に哀しそうな顔を見せる妻が可哀想で、だんだんとジェシンの縁談を無理に持ち込まなくなってきたところ、今度はグンス自身に花妻を持たないかという話が来るようになったのだ。

 

 ジェシンは見限られる、そう判断する者がいるということだ。そうすれば、小論という大派閥の重鎮であるムン家の跡継ぎがいなくなる。実際は男子が生まれなくても、入り婿、親戚からの養子縁組という形で家はいくらでも存続できるのだが、血筋、が持つ価値には敵わないのだ。直系が尊ばれる国。男としては働き盛りのグンスなら、子を産む事のできる年齢の娘をあてがえば、子などいくらでもなせる、そう考える輩がいるのだ。

 

 グンスが妻を大切にしているという噂は、ここから広まった。花妻を勧めに行った者はことごとくグンスの不興を買ったのだ。儂には妻がいる。花妻などいらん。その一言で皆追い返される。そして成均館でいい方に変わり始めたジェシンの事が合わせて広まると、今度はジェシンへの縁談がちらほらと舞い込むようになってきた。

 

 好機だとは思うのだ、グンスも。年齢的には、ジェシンは妻がいてもおかしくないし、グンスはすでに長男を授かっていた。以前より条件の良い縁談もある。しかし、グンスは以前妻と約束をした。

 

 妻がジェシンの相手を探してみる。だから、少しの間待ってください。

 

 ということで、夫婦の居間でニコニコ笑う妻を見られるのは大変嬉しいことなのだが、ちょっとばかり尻込みをしているグンス。妻は、長男の冥福を祈りに寺参りに行く位しか外出しないし、人が訪ねてきている様子もない。グンスは朝廷での仕事が忙しいため、屋敷内の妻の様子を逐一知っているわけでもないから、妻がどのような伝手で、どのような基準で、どんな話を持ち出すのかが全く分からない。賛成できない話を許すつもりはない。ムン家の今後に関わるからだ。そこは当主としての責任が有る。けれど、妻の哀しい顔を見るのは、長男の死を知った後と、ジェシンの素行が酷かったときでもう沢山なのだ。13才から共に過ごしてきた情愛は、今は少し邪魔だ。

 

 「あの・・・旦那様?私、いいお嬢様に巡り会いましたのよ!」

 

 おお、とグンスは姿勢を正した。

 

 

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