ROSE 薔薇が咲いた日 その20 ~ヨリユニパラレル~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 リングはシンプルなシルバーのもの。台座から其れを手に取るとき、自分の手が震えているのをヨンハは自覚した。

 

 淡々と、静かに進む式。その厳かさが、ヨンハに今行っている約束の重さを実感させる。少ないけれど大切な人たちの視線を一身に浴びることで、ヨンハは初めて緊張を感じていた。

 

 視線を集めることには慣れていたはず。幼い頃からいい家の御曹司としてちやほやされ、そこそこ良い成績で見た目も良いことから、女性からも人気があり、大学生になる頃にはメディアにも取り上げられるようになり、社会に出てからは人前に立つことが多くなった。どこでだって大して緊張はしなかった。そういう性格なのだろうと自分では思ってきた。喋ることだって、その場に応じて機転の利いた言葉を紡ぎ出す事ができていた。そんな自分の手が震えているのだ。

 

 ユニ側の席からだけではない。自分の身内の席からも感じる強い視線。分かるのは、其れが否定の念ではないこと。

 

 しっかりやれ、幸せにしてやれ、いやお前も幸せになれ、頼んだよ、頼みますよ、泣かせるんじゃないよ、何しろ健康でいろ、仕事もしっかりやれ、尊敬される夫、父親となれ、奥さんを綺麗なままでいさせてやるんだ、お前の甲斐性一つだよ、お前は奥さんがいるだけで幸せになれそうだからお前の努力次第だな。

 

 皆の声が交錯するように響く気がする。その中に、あの人達の声は混じっているのだろうか。

 

 ユニの母が大切に抱いているユニの亡き父の写真。ばあやが膝に載せているヨンハの亡き母の写真。参列者の中に、この二人も写真としてちゃんといてくれる。薔薇の意味を教えてくれた母と、今も家族皆に慕われているユニの父。二人にどう誓えというのか、二人がそれぞれの家族に残した愛情は、今も醒めることなくあるのに、それに敵うものを見せろと言うのか。

 

 花嫁であるユニの、肘まで覆っていた真っ白なグローブが、付添っている介添人によってそっと外されていく。其れを待ちながら、差し出された台座からリングをとろうとしたその短い時間に、ヨンハの脳裏には様々な事が飛び交った。その重さが、手を震わせているのだろうか。

 

 『その決意をするための日だろうよ。』

 

 こんな時に響くのは親友の声。親友が言っているわけではないのだが、なぜか大事なときに決断させる言葉は彼の声でヨンハを励ます。

 

 『若造に誰も大層な事は求めてねえよ。ユニさんに手伝って貰えよ。てめえは案外へたれだからよ。』

 

 『子供にまで愛情を注いだ人たちに勝てる訳ねえし、過ごした時間だっててめえはまだまだ短いんだから。』

 

 『頑張ります、見ていてください、下手くそだったら手伝ってください、って素直にお願いしとけよ。』

 

 『見栄張ってる場合じゃねえ。大体、ユニさんの前でてめえが格好良かったことあったか?』

 

 『出会いがあれだぜ。てめえの女の不始末からだぜ。そこからてめえの必死の行動がほら、見ろよ。』

 

 

 ブーケとユニさんの髪に飾ってあるじゃねえか。その花を贈り続けた今までを忘れなきゃ、てめえは大丈夫だよ。

 

 

 目の前にあるユニの黒髪。そこに一輪輝く、小さいけれど赤く花開いた薔薇。そして、今は介添人に預けられたブーケには、ほころびかけた花弁がヨンハの目を射る。

 

 手の震えは、いつの間にか収まっていた。

 

 牧師に促されて、ヨンハはユニの細い指にそっとリングを通した。そして、ユニのその細い指が摘まんだリングが、ヨンハの左手の薬指におさまり、二人の夫婦の誓いが成立したことを牧師が高らかに宣言してくれる。

 

 指輪をはめたユニの手を、ヨンハは離さなかった。ヨンハの左手に添えられたユニの左手はヨンハの左手に包まれ、指輪をヨンハに通したユニの右手はヨンハの右手が上から覆ってしまった。顔を赤らめたユニに見上げられながらも、絶対に手を離そうとしない様子に、牧師がかすかに苦笑しながら誓いのキスを、と言うと。

 

 「・・・あの馬鹿野郎・・・どこの国の王子様だよ・・・。」

 

 舌打ちしそうな低い声でジェシンが呟く中、祭壇の前でユニの両手を捧げ持ったままひざまずいたヨンハは、ユニの手の甲に口づけた後、ユニの両手をそっと引っ張り、上体をかがめたユニを引き寄せて、そっとその唇にキスをした。

 

 

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