ROSE 薔薇が咲いた日 その14 ~ヨリユニパラレル~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 一目見た娘の姿に、ユニの母は娘が幸せなのだと分かって胸をなで下ろした。

 

 少し、いや大いに心配ではあったこの結婚。ユニという自分の娘のする事は信頼しているから、最初から反対するつもりはなかったし、住む世界が違う階級の人だと心配していた相手方から誠意のこもった挨拶をしてもらていたから安心もしていた。

 

 まさか自分の娘が、人の噂話のねたになるような媒体に載る対象になるとは、と知ったときは驚いたものだった。本人からも、一緒に住む弟からも報告を受けていて、真面目なおつきあいだと知ってはいても、ニュースになる度に、娘の恋人のかつての行状が取りざたされ、其れを周りから勘ぐられることには少々疲れた。特に母は安東という地方に一人で残っている。情報もリアルタイムではない。遠慮のないご近所からも心配そうに、時には相手の財力のためかうらやましそうに探りを入れられることにも慣れた頃、ようやく結婚という確かな約束を取り付けに、相手方が来てくれたのだ。

 

 ああ、潮時だ。と思った瞬間だった。

 

 ユニ、ユンシクという二人の子供達には、以前から誘われていた。もう二人とも自立して働いている。ただ、故郷に帰る事はもうない。お父さんの遺骨と一緒に、どうかソウルに来て一緒に住んでくれないか。二人の子供が、夫が亡くなってからの自分に感謝してくれていることは分かっていた。けれど子供達だって偉かった。学生時代、二人は寮費と共に振り込んでいた生活費を、まるまる使わずにバイトで賄ったのだ。母の負担を少しでも減らそうと、彼らはできる事を懸命にしてくれた。学生生活が終わって新生活を始めるとき、部屋を新たに借りたり、家電を買ったり、とまとまった金が必要だったろうに、其れを全て使わなかった生活費とバイトで貯めた金で賄いきったのだ。

 

 子供達はちゃんと育ってくれた、とその時に実感していたはずだった。けれど『結婚』という事実はもっと大きな実感を母に与えた。

 

 ああ、この手から巣だっていくのだ・・・。

 

 母はまだ少し古い考えの残る世代だ。結婚は家と家との約束だ。自分たちは駆け落ちのようなものだったから夫婦二人だけの生活だったが、ユニは違う。相手の家に『迎え入れられる』といっていい。嫁に出すのに恥ずかしい事は何もない。裕福ではないが、十分に教育を受け、きちんと働く娘に育ったユニ。今足りないことがあっても、ちゃんと身につけるだけの力はあると母も信じられる優秀な娘だ。その娘が、飛び込んでいくのだ、母の知らない他の家へ、一人で、自分で全て心に決めて、自分の足で。旅立つのだ。

 

 「お母さん!」

 

 長距離バスから降り立った母を、満面の笑顔で迎えたユニ。手を振りながら駆け寄ってくるその後には、控え目ながらも明らかに警固の職に就いているとわかる逞しい男性が着いてきている。母に飛びついたユニが荷物を母から取り上げると、今度はユニから荷物がそっと取り上げられた。よく見ると、警固の男性は二人いて、二人ともそこそこのベテランの年齢とみられる落ち着いた人たちだった。ユニも、礼を言っているが遠慮せずに荷物を託している。甘えている、と母はおかしくなった。そんなユニは、母と腕を組んでぴったりとくっついて歩く。母にも甘えているのだ。

 

 「荷物をね、マンションに置いたら、ヨンハさんとお義父様とユンシクと一緒にお食事しましょうって誘われているの。明日はゆっくりお話もできないでしょうし、私たち・・・すぐに旅行に行くでしょう?」

 

 ユニたちが新婚旅行に日本に行くことは知らされていた。若いのだ、楽しめば良い、と忙しいと聞いている娘の婿になる青年の事を思い、ユニの言葉に頷いて応える。

 

 「ちょっと早い時間に約束してるの・・・明日は忙しいから早く帰宅できるようにって。だからご心配なくって。それでね、それでね、あのね・・・今夜はね・・・お布団をリビングに並べて、ユンシクも一緒に三人で寝ましょ、お母さん・・・?」

 

 そうね、親子である事はいつまでも変わらないけれど、親子らしい事が堂々とできるのは、今夜が最後かも知れないね。

 

 頷く母に嬉しそうにしがみつく娘を、荷物を持ちながら後を着いてくるアジョシコンビが、微笑みながら眺めていた。

 

 

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