㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
下着選びはやはり一緒にはダメだ、とユニは頑張った。シングルハンガーや簡易の棚で一杯の応接室の隅に立っているトックを、ユニはどうにか召還した。目配せだけでトックは瞬時に移動してきてくれた。ぼうっと立っていないところがさすがだ。坊っちゃん、お嬢様がお困りですよ、と人前だということもあって穏やかに、けれども身体を下着のコーナーの前に滑り込ませて止めてくれた。
「俺が選ばなくてどうするんだよう!」
「お召しになるご本人が選べばいいものですよ。坊っちゃんが選んでどうするんですか。」
「男のロマンじゃないかっ!」
さすがにそれ以上は言わせまいと、トックはオロオロしている外商担当の女性担当者を目顔で呼んで、後日に、と短く言い渡した。
「お嬢様だって自分のお好みのものをじっくり選びたいですよ。お嬢様、都合の良い日にまたお連れしますので、ゆっくりお選びください。その人と日時をご相談くださいね。お仕事帰りにでもこちらに寄って貰ったら。坊っちゃんは他の買い物は終わったんですか?集計して貰いますけど?」
「まだっ!ユニのバッグを選んでない!」
「じゃあそっちを選ばせて貰ったらどうです?早くしないと、強制終了しますよ。お嬢様は明日、お仕事なんですよ。」
「わかってるって!」
ほらほら、バッグってキャリーケースもでしょう、一番必要なものじゃないですか、どうして其れを先に選ばないんですか、とぐいぐいトックに背中を押されて、部屋の一番端に並べられているキャリーケースのコーナーにヨンハは移動していってくれた。ユニはようやくほっとして、隣にやってきた担当者の方に向き直った。
「あの・・・平日の夕方に来たいんですけれど・・・。」
もう式まで二週間を切っている。用意できるものは早めにしておきたい。
「お・・・お嬢様のご都合のよろしい日時を仰ってくださいませ!」
若い女性担当者は、声を裏返しそうになりながら応えた。おそらく、一組の客が一度に購入する量と額が、初めて見るものだったのかもしれない。宝石などの外商での販売は立ち会ったりしているだろうが、額はともかく、物量は今回はかなりある。そこそこのブランドショップのものばかりだから、値段も合わせればそれなりになる予定だ。
「でも、お休みの日がありますよね?」
このデパートはいつ定休日だったかしら、とユニは頭を捻った。
「あ・・・あ・・・失礼しましたっ。火曜日が定休日ですっ。」
「そうですか。では・・・水曜日の・・・トックさん、幼稚園からここまでって、どれぐらい時間がかかりますか?」
離れたところからすぐに返答があった。
「道路が混んでいるとして、30分ぐらい見ていれば十分ですよ!」
「じゃあ、夕方の5時過ぎ・・・っていいかしら?」
「はい!なんの問題もございません!」
頭をぶん、と下げた担当者に、ユニは近づいて小声で尋ねた。
「あの・・・あのね・・・そのね・・・ランジェリーの担当の方にね・・・。」
頭をぶん、と今度は上げた彼女は、耳を寄せてくる。それぐらいユニの声は小さかった。
「・・・あのね・・・新婚旅行に・・・持っていくけれど・・・私はあまり・・・い・・・い・・・色っぽいものは苦手で・・・だけど・・・だから・・・分からなくて・・・何が良いか・・・だから・・・どっちも見たいって・・・えっと・・・アドバイスが欲しいって・・・お願いしていいかしら・・・。」
担当者は、頭の中で、ユニがしどろもどろに、けれど必死に説明したことを整理した。そして。
「あの・・・つまり・・・スタンダードなものと、少し特別なもの、両方をご用意させて頂き、ご覧頂くときに専門の担当者がご助言差し上げるように準備させて頂いたら、ということで私の理解は合っていますでしょうか?」
ぱちん、とユニが胸の前で手を合わせた。大正解だったらしく、ユニの笑顔を見て、担当者も胸をなで下ろした。
「それでお願いします。お手数かけますけど、助かります。」
部屋の隅から、キャリーケースは一人一つですよっ、と叫ぶトックの声が聞こえてきて、二人はくすりと笑いをこぼした。