㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
「だいたいさ・・・こういう写真を撮る時って、こっちから注文を一杯出すんですよ、ユニさん。」
はい、と聞いているユニに苦笑交じりにガンジュンカメラマンは言った。今さっきも、こっちを向いてね、ちょっと前に出ましょうか、などとは指示されていたから、記念撮影とはこんなものなのだろうと単純に思っていたのだが。
「もっとさ、寄り添って見つめ合ってくれとかさ、花婿さん、花嫁さんの肩を抱いて、腰を抱いて、ほらもっと嬉しそうに、こっち向いてあっち向いて、くっついて、とか。笑顔を見せて貰いたいからさ、もちろん花嫁さんってみんな綺麗なんだけど、一杯褒めるわけ、こっちも。綺麗ですよ~、凄く幸せそうでうらやましい、今日一番の笑顔じゃなかったかな、今の角度、全身が一番綺麗に写ったよ、花婿さんいいよねこんな可愛いお嬢さんがお嫁さんで、って。でもさ、俺、今日、な~んにも言ってないよね。」
そういえば、とユニは首を傾げた。そんなユニを、ヨンハが嬉しそうに抱き寄せて顔をのぞき込む。そこは赤いビロード張りのソファがどんと置いてあるスタジオだった。チャペル、チャペルに上がってくる下の階からのらせん階段、チャペルを出たところの絵画の飾られたホールでの撮影はすでに終わり、最後の撮影だと聞いていた。ユニだけが座り、ヨンハがソファの背もたれの後ろにいるという構図から、隣に座って手を取り合っているポーズ、腰を抱いているポーズなどを一通り取り終わった後のこと。一つのポーズに何枚撮るのだろうと思うほど、ガンジュンカメラマンの手元のカメラから聞こえるシャッター音とフラッシュは止まらなかった。今も、無駄話しているような軽い口調で話しかけながらも、何度もフラッシュが焚かれている。
「なんでかって言うとねえ・・・この坊っちゃんが全部勝手にやっちゃうからなんだよね。くっつくなって言うぐらいくっつくし顔はのぞき込むし、何かユニさんに言ってるんだろ・・・ユニさんの表情が変わってさ、こっちが言う前にそこそこいい構図と表情になっちまう・・・。」
「なんだよ~ガンちゃん?!協力的でいいだろっ?!」
「楽だけどよ~、自分の写真写りをよく知ってるって感じで、何だかカメラマンとしちゃつまんねえよな。あ、ユニさんのことじゃねえよ、この坊っちゃんの事だぜ。」
「俺達の一生一度の結婚写真なんだから、ユニは当然だけど俺だっていい男に写ってないとダメだろ?!ユニはどんな角度から撮っても綺麗だけど、その中で一番いいのにしたいし、まあ俺だっていい男だからさあ。」
「自分でいい男って言いやがったよ。まあ、ユニさんがどんな風に撮っても綺麗なのは認める。ただカメラマンとしてはさあ、自分の撮る写真だから、自分が色々頑張って被写体を美しく写した、っていう歓びも欲しいわけよ・・・。其れを全部坊っちゃんにやられた気分だ。慰謝料を要求する!」
「え~~?まあいいや。今度テムル達と飲み会する時の会計、持つってのでどう?テムル達と仕事の打ち上げするだろ?」
「ユニさん!聞いたよな?覚えておいてくれよ!あんたが証人だぜ?!」
ユニは、ヨンハとガンジュンカメラマンの顔をきょろきょろと見比べながら話を聞いていたが、途中からおかしくなってきて笑い出してしまった。殆ど写真を撮りおわっているという安堵感もあったのだろう。おかしくって大きく口を開けてあははは、と笑うと、またフラッシュが焚かれ、しっかり撮られてしまった。慌てて膝の上で握っていた造花のブーケを口元まで上げ、さすがにちょっとばかり照れくさくなって口元をブーケで隠しながらヨンハを仰ぎ見た。純白のウエディングドレス、レースのグローブ、ティアラから流れ落ちるベール、そして白い肌にふわっと上る赤い血の色。桃色に染まっていく頬から目元。
パシャ!!
また焚かれたフラッシュに、ユニはカメラマンの方を振り向いた。
ゆっくりカメラを下ろしたガンジュンは、満足そうに笑っている。
「今日一番の表情でしたよ、ユニさん。本当に貴方は美しい。」
そして、言った。
「ク・ヨンハ専務。この度は良き縁を得られてうらやましい限りだ。おめでとうございます。データはトックさんを通じてお送りしますから、良いのを言って貰ったら、腕によりをかけて、俺が現像しますよ。」
お疲れ様でした、と声を響かせながら、ガンジュンカメラマンは機材を担ぎ、アシスタント共にさっとスタジオから出て行った。