㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
ユニのいる部屋に戻ってしばらくすると、授乳だと言ってアインが部屋に届けられた。生まれてから一日だけは新生児室で過ごすが、母子共に健康であればその後は母子同室にしてくれる方針の産院だ。明日になれば、アインの眠るベッドがこの部屋にあることになるだろう。
ミニョンはアインが部屋に来た時は、ユニの膝の上にしがみついて離れようとしなかったが、アインの元気よく泣く声に意識を持って行かれて何度も振り向いた。ジェシンも不思議に思った。アインが泣いているのに、ユニは動こうとしなかったから。
「赤ちゃん、まんまの時間なのよ。」
「まんま?」
「そう。ペゴ、ペゴ(お腹がぺこぺこ)。」
「ペゴバ?」
「ミニョンは?おやつ食べましょうね。冷蔵庫をパパに開けて貰おうね。」
アインがあんまりにも泣くので、ジェシンはアインを抱き上げた所だった。片手でアインを抱えたジェシンは、ユニとミニョンに見つめられて、備え付けの冷蔵庫を覗くハメになった。アインは元気よく泣いてはいるが、さすがに生まれたてだけあって、多少ばたつかせる足や手の力は弱いため、なんの苦労もなかったが。
覗いた冷蔵庫の中には、プリンが鎮座していた。
「どうしたんだ?」
「今朝、売店に買いに行ったの。多分ミニョンも連れてきてくれると思って。」
紙パックのジュースもある。とりあえず、プリンと、その上においてあった使い捨てのスプーンを取り出して、ジェシンは立ち上がった。
「ミニョンのおやつはプリンで~す!赤ちゃんのまんまはおっぱいで~す。一緒に食べようね。」
ユニが促すと、ミニョンはユニの隣にぺたんと足を伸ばして座った。手を伸ばしてくるのでプリンをそのまま渡すと、ユニに蓋を開けろとばかりに押しつけている。
お行儀が悪いわね、と呟くと、ユニはミニョンを抱いてベッドをおり、ソファに向かった。簡易のテーブルを引き寄せ、そこに蓋を開けたプリンを置き、手近にあったタオルを首回りに巻いてやってスプーンを渡す。ミニョンが嬉しそうにスプーンを突き刺すのを見てから、ユニはようやくジェシンを見て手を出した。
「はい。赤ちゃんもおっぱいを飲みましょう。」
アインは真っ赤な顔で泣いていた。ユニは手早く胸をくつろげて消毒シートで拭くと、アインの顔を引き寄せる。口元が探し当てた乳首に吸い付くのは早かった。泣き声は一気に収まり、生まれたてとは思えない勢いで口元が動いている。
「ミニョン、美味いか?」
すでに口元がべとべとのミニョン。ジェシンがティッシュで拭ってやると、ご機嫌に頷く。容器の中もぐちゃぐちゃだ。スプーンを思い切り突っ込むからだ。その割に掬える量は少ない。けれどミニョンは笑っていた。
アインの授乳はすぐに終わった。まだ飲む量は少ないのだ。飲む前に盛大に泣いたのもあって、おっぱいを口にくわえたまま寝ていったアイン。その時点でジェシンはアインを受け取った。まだまだ忘れはしない新生児の世話。縦抱きにして頭を肩に載せ、優しく、けれど少し強めに背をさする。豪快なげっぷの音が聞こえて思わず笑うと、そっとベビーベッドに戻してやった。
看護師が受け取りに来るまで、部屋にいていいアイン。ユニは、アインの授乳後の後始末をジェシンに任せて、後はミニョンの世話に終始した。口元を拭き、話しかけ、掬いにくくなると食べさせてやった。それだけでミニョンはとてもご機嫌だ。ママが自分の方を向いてくれているのだから。
「上の子をしばらくは優先してあげなさいね、って。」
アインが新生児室に戻り、ミニョンがユニのベッドで寝て、ようやく二人でソファに座って話をした午後。
「しばらく泣いてたって大丈夫よ、って。ちょっと可哀想だけど、しばらくは仕方がないから、って。」
胸の張り具合を見に来た助産師が、午前中にアドバイスしてくれたのだそうだ。ミニョンが珍しく我を張った、という話をしたところ、マッサージを施しながら色々話をしてくれたらしい。
「一人子育てを経験したからって、大した事じゃねえんだなあ。」
ぼやくように言うジェシンに、ホントね、と言ってユニは笑った。