蜜月 実りの秋 その11 ~コロユニパラレル~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 眠るとずっしりと重くなるミニョンの身体を抱えて戻ると、母達が廊下に出ていた。助産師の診察が入っているらしい。寝たのね、と少し安心したように言う母の膝にミニョンを乗せて聞くと、ジェシンとミニョンが外に行っている間にとうとう破水したらしい。破水がミニョンの時より遅かったために、もう少し時間が経っていたら、人の手で破水をすることになるはめになっていたかもしれないということだ。そして、そのおかげで一気にお産は進んでいて、もう出産する部屋へ行くことになるだろう、ということだった。

 

 「ミニョンちゃんは見ておきますからね。」

 

 「何か持っておくものはない?」

 

 代わる代わるに言われて、ジェシンは緩めていただけのネクタイを外し、スマホと共にユニの母が抱えてくれていた鞄に突っ込んだ。上着は車に乗るときには大体脱いで運転する癖があり、今日も裁判所から乗り込んだ時点で車の後部座席に放り出してあるから今はない。鞄も置いておけば良いのだが、さすがに多少は仕事の書類や記憶媒体が入っているので、置きっ放しというわけにはいかなかった。

 

 扉が開いて、助産師が顔を出した。キム・ユニさんの旦那様、と呼ばれて近づくと、そろそろですので、と言われた。

 

 実は、と今回の妊娠時にユニが漏らしたことがある。

 

 立ち会い出産を、本当はしたくない、と思っていたのだ、と。

 今は立ち会いは主流で、何も抵抗がないかのように当たり前にする方向で産院でも聞かれた。ジェシンは当然したい、と言ったから、ユニはそういうものか、と思っていたが、よくよく考えると、と苦笑したのだ。

 

 『あの格好よ・・・それに、綺麗なものじゃなかったでしょう?』

 

 診察時の内診でも、結構恥ずかしい格好をするのだ。出産時は下半身むき出しだ。どんなに手術用のシートを被せられていたとしてもだ。赤ん坊だけがころん、と生まれてくる訳ではない。羊水、血、体液、最後には赤ん坊を育てていた胎盤も流れ出てくる。そんな生々しい姿を見られるのは、と母親教室で、そして自分で調べる間に思い始めていたらしい。けれど、ジェシンの心配げな、それ以上に生まれ来る子を楽しみにしている様子に言い出せなかったらしい。

 

 『そばにいて欲しい気持ちはあったんだし。』

 

 とユニは微笑んだ。

 

 『それにね、結局いてくれて良かったの。ジェシンさんの手を握っていたから頑張れたわ。私、陣痛が酷くなっていくにつれて、ジェシンさんをずっと呼んでたんですって?あんまり覚えてないの。だって痛いんだもの。格好悪いことなんか忘れてました。だから、次も、お仕事さえ抜けることができたら、立ち会い出産、お願いします。』

 

 手を洗うように促され、ユニがさっきまで寝ていたベッドの上に用意された術着を身につける。ユニはすでに準備室に扉で繋がっている出産のための部屋に運ばれていた。産婦も準備があるのだ。その間も絶え間なく襲う、言葉通りの『産みの苦しみ』に耐えながら。だから、とジェシンは手早く用意を終えた。

 

 入る前に消毒液を手に吹きかける。衝立の向こうから聞こえるうめき声はユニのものだ。助産師の、もう頭が少しでているから、と言う声にジェシンは慌てた。必死にめくり上げた肘の部分まで消毒液を広げて塗りつけると、ユニの側に行く。ユニはすでに胸から下をシートに覆われていた。

 

 「お二人目さんですからね。頭が出始めると早いですよ。お母さん!すぐに終わるから頑張るのよ~!」

 

 「・・・は~・・・い・・・。」

 

 律儀に返事をしたユニに苦笑して、ジェシンはユニの手の甲を大きな掌で包んでやった。横たわっている出産用のベッドの持ち手を握りしめていたから。すると、ユニが手を持ち手からふりほどき、ジェシンの手にしがみついた。

 

 頑張れと言うのは簡単だ。口を開けばそれしか出てこないだろう。けれど、顔をゆがめ、助産師の言うとおりに必死に呼吸を整えようとしているユニに、これ以上の頑張れは必要ない。必要なのは少しでも痛みを逃せるかも知れないしがみつく場所で、其れが自分の手だとジェシンはもう知っている。だから、側にいて、ユニの力の限りをこの手で受けてやるのがジェシンのただ一つできる事だ。

 

 「はい!今いきんで!」

 

 医者が足下で待ち構える中、助産師が叫んだ。

 

 

 

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