㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
「もう~、何事かと思ったでしょ~?」
ジェシンの大声に驚いて昼寝から目覚め、泣き出したミニョンを二人で必死にあやし、なんとか涙を納めさせてから車を降りた。泣きわめきながら家の中に入れた日には、ジェシンの母から何を言われるか分かった者ではない。主にジェシンが。まあ、今回は完全にジェシンのせいだったが。
購入したものを片づけるためにユニとジェシンは二階の若夫婦の部屋へ行き、ミニョンは祖母であるジェシンの母とおやつを食べるからと一階に残った。当然荷物はジェシンがさっさと運び入れ、ユニはジェシンに手を引かれた階段を上ったわけだが、部屋に入ってショッパーを開けながら、ユニが車の中でのジェシンの大声についてようやく触れたのが先の言葉。
「・・・ああ・・・やっと思いだしたもんだから、思わずな・・・悪かった。」
ジェシンは新しいベビーカーとミニョンが今まで使っていたベビーカーを、新聞を床に敷いてその上に並べていた。新しいものは、保護の為に巻き付いているビニールなどをとらなければならないし、一度拭いておきたかった。古いものも、丁寧に使ってはいるが、それでも一年しっかり使用しているので、汚れを取っておいてやりたいと思ったのだ。
時間がかかるのが分っている古い方から、固く絞った雑巾で拭きだしながら、ジェシンは肩を竦めた。
「それで、ベビードレス、って聞こえたけれど?」
「そうそう!ベビードレスだよ!」
ミニョンは、生まれて一週間後に退院するときに、ジェシンの母が用意していたベビードレスに包まれていた。それはそれは母の趣味全開のフリルに覆われたものだった。可愛かったけれど、そういうものなのか、少々大きめのサイズ感のせいもあって、ミニョンはレースに埋もれて見えた。小さな頭を包み込む帽子から、白いフリル付きの靴下まで、それこそ頭のてっぺんからつま先までふりっふりだった。
文句はない。親ばかと言われようと可愛らしいと思ったし、まあ、めでたい日だからドレスアップしてもいいし、何よりジェシンの母とユニの母が二人して嬉しそうに着替えさせ、可愛い可愛いと連呼していた。幸せな思い出だ。だが。
「次は男だろ?」
「そうね。」
「別にドレスは要らないよな。」
「どうして?」
ユニの返答にジェシンは首を傾げた。話が通じなかったのだろうか。見るとユニもジェシンと同じように首を傾げている。
「・・・あのドレスはミニョンが女の子だから用意したんだろうし・・・今回は何も準備してないだろ?」
ああ、とユニは納得したらしく数度首を縦に振った。ジェシンは話が通じてほっとしたのだが。
「ミニョンのお下がりだけど、あのドレスがあるからいいのよ。」
「・・・。」
通じてなかった、とジェシンは再度口を開こうとしたが、ユニは買ってきたタオル類を、水に通さなきゃ、と封を切ったり値札をとったりしながら、ジェシンより先に口を開いた。
「あのドレスを買うときに、お義母さんが『女の子でも男の子でもどちらも着れるのよ!』って仰ってたし、大体ああいうベビードレスはユニセックスなのよ、性別はあんまり特定してないの。だからあのドレスを使うから。」
あ、ちゃんとクリーニングに出してあるから、とユニは平然と微笑み、また作業に戻った。ジェシンはベビーカーを拭く手が止まってしまっている。
ユニセックス?性別は特定していない?どう見たって女の子が着るものだよな?
ジェシンは雑巾でベビーカーの足下の方を、何度も意味なくこすりながらぶつぶつと考えた。
あれはちょっと可哀想じゃないか?いくら赤ん坊だと言っても、後でアルバムを見たときに黒歴史にならないか?俺はあんな写真は残っていなかった・・・はずだから普通の服を着てたんだよな?別にベビードレスを着て退院する必要は、毛ほどもないはずだよな?
雑巾を裏返しながら、ベビードレスじゃなくてもいいんじゃないか、と生まれてくる子のために言おうと思ったら、またもやユニに先を越されたジェシン。
「お義母さんが退院の時に持ってきてくださるって仰るから、もうお渡ししてあるの。私の入院の時の荷物に入れたらかさばりますからね、って。だから、ジェシンさんは何も用意しなくて大丈夫よ。」
すでにジェシンの反論の余地は、一ミリも残されていなかった。