㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
「だから聞いている。
どれぐらいなら失礼に当たらないんだ?
お前は納得する?」
ヨンハは言葉に詰まった。
親父は何を言っているのだろうか。
「お前が惚れた娘ごなのだろう?
失礼に当たらないように、十分な結納が必要だろうが。
お前が恥をかいては、夫となる身で
立つ瀬がないだろう。」
ぼけ、っとしているヨンハに、
トック爺が横から助け船を出した。
「あのですね、坊ちゃん。
お嬢様のお家に結納をお持ちするにしてもですね、
少なすぎでも失礼ですし、多すぎると
なおお嬢様が嫌がられるかもしれない、と
旦那様は仰っているわけですよ。」
お嬢様の誇り高さはご存じでしょう、と
言うトック爺に、ヨンハは我に返った。
ユニは、自分の出自を引け目には思っていない。
ユンシクに、貧しいための不自由な思いをさせたとは
思っているようだが、それは生活の面だけだ。
何よりも、ユニとユンシクは、
亡き父の子であることを誇りに思っているのだ。
学者肌だった二人の父。
数名弟子もいたらしい。
金はあまり残さなかったが、蔵書は膨大に遺した。
その父の遺産に二人は育てられたのだ。
容貌も知性も父譲りの二人。
キム家の血を引く物として、生きている。
ユニはユンシクをそう育てたのだ。
キム家を背負う者として。
その引き継がれた才を世に出そうと。
父に話したことは言葉の綾であって、
ヨンハはユニとの縁が金で買えるとは思っていない。
即物的に話をすることによって、
自分が冷静にこの縁を考えた事を
父に知って貰いたかったのだ。
感情で商売をするものではない、とヨンハは教えられた。
だからこそ、ヨンハはこの縁の利を父に知って貰いたかった。
その父が、ヨンハに確認している。
どのように結納を用意すれば失礼に当たらないのか、と。
力ずく、金ずくで婚儀を整えるなら、
相手がみたこともない結納を提示すればいいのだ。
おそらく、母の時はそうしたに違いない、と聞いている。
婚儀を挙げ、数年後にはヨンハを設けるほど睦まじくなったらしい両親。
しかし、出会いは身分を買う、という冷たい物だったとも聞く。
それを、父はしない、と言ってくれているも同然なのだ。
ユニの、キム家の意向を考え、
キム家に失礼のない対応を、と言ってくれている。
「・・・父上・・・?」
父の顔を伺うと、
苦笑を一つ漏らした、男臭い、
ヨンハには全く似ていない容貌が崩れた。
「正直に言えばいいんだ。
お前はその娘ごに惚れきってしまって、
さっさと婚約してしまいたいんだろう?
儂にまで隠し事をするとは
お前も大きくなったもんだ。」
笑う父の目の前には、
照れくさそうにうなじをかく
亡き妻に生き写しの息子の姿があった。