㊟一周年記念リクエスト。
成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニが王様に会えたのは、
ユンシクが出仕して数日後。
お忙しい王様、とは分かっていたが、
ユンシクの話を聞いても不安だったユニは、
いつもの護衛に守られて、
白猫のいる農家へと急いだ。
本来は、すでに宣旨も内々に用意されている
側室候補。
隠れて会う必要もないし、
王様が直接呼びつければ良い。
しかし、ユニには王様が外で会ってくれる気持ちが
とてもありがたかった。
覚悟はしていても、
世の女人と違い、素顔をさらして
外を闊歩してたユニ。
怖いこともあったが、自由もあった。
それをすべて捨てて行く後宮。
気後れや怖さがないわけではない。
前と同じように飛び込んでしまった部屋。
そしてそのまま飛び込んだ暖かい胸。
今日は、何の言葉も交わさないまま
唇が重なった。
やはり手放せぬ・・・!
扉から飛び込んできた娘は、
王様、と己を呼びながら
そのまま胸に納まった。
その少し弾んだ息を漏らす唇。
思わずふさいだその桃色の柔らかな温もり。
今までは怖がらせぬように、
ただ、暖めるように触れていただけなのに。
唇も放せぬ。
こんな思いは初めてだ・・・。
いきなり与えられた口づけに、
ユニの唇は息を漏らしたままに受け入れた。
その少し空いていた隙間から、
王様はさらにユニの温もりを求めた。
正直、閨の作法は習ったとおり。
唇にも作法通りに触れはする。
触れたいからではない。
順序だからだ。
子を作るための閨。
妃たちもただ大人しくそれを受け入れる。
それが後宮のしきたり。
それで良かった。
若い儒生を見つけたり、若い官吏に
重要な仕事を与え、育てたりする方が
よほど楽しい仕事だ。
そう、閨も政務の一つだ。
だが・・・
今、余がしていることは何だ?
閨の作法にはない。
このように唇の柔らかさを、熱さを、
かぐわしい香りを貪るなど、
教えても貰わなかったし読んだこともない。
ああ、そうだ・・・。
このように、思いのままに味わおうと
舌を這わすことなど・・・。
千々に乱れる思考のまま
ユニの唇をふさぎ続けた王様は、
はっと気づいてようやくユニを解放した。
ユニは息もできないほど拘束されていたため、
気が遠くなりかけ、息づかいも細くなっていた。
王様は慌ててユニを抱き直し、
胸に頭をもたれさせると、
背中を優しく撫でた。
優しい声が聞こえる・・・
許せ・・・思わず・・・すまぬ・・・
ああ
謝らないでくださいませ・・・
少し・・・息が詰まっただけですから・・・
覗き込んだ顔。
閉じた目尻にはうっすらと涙がにじんでいる。
頬は上気し、桃色に輝く。
今まで蹂躙していた唇は、
濡れて赤く輝いている。
喉が鳴る。
今、許しを乞うたばかりであろう?
このように、涙を浮かべるほど、
息も絶え絶えになるほど
余はこの者の唇を責めたのに・・・。
まだ足りぬと?
これが・・・男女の情欲というものか・・・?
ユニは少し息が落ち着いてきたせいか、
王様の胸に顔を埋め始めた。
恥ずかしくなってきたのだろう。
王様の胸元をぎゅっと握り、
顔を強く胸に押しつける。
ユニの濡れた唇が己の胸に隠れて、
王様もようやく気が治まってきた。
数度大きく息をつき、
少し話を、とユニを抱き起こそうとしても
ユニは恥ずかしがってしがみついたまま。
仕方がなく、そのままのユニに
話をしなければ、と思ったとき。
ぽん
ぽんぽんぽん
とユニのチマの上を踏んで、
白猫がユニの膝へと上ってきた。
そしてぐるりと回ると、
わざわざ王様とユニの間におしりを突っ込んで
うずくまってしまった。
体を丸めてしらんふりして眠る白猫。
ユニも思わず顔を上げて
膝の上の白猫を見下ろした。
王様も邪魔にもできず、ただ見ている。
まあ、うふふふふ・・・
こやつは ははははは・・・
ユニが笑っても、
王様が笑っても、
白猫は動きもせずにしらんふり。
ただ、形の良い三角の耳だけが
ぴく、とするのがまたおかしい。
狸寝入りの白猫のお芝居は、
ユニの羞恥も王様の動揺も
ふんわりと軽く笑いに変えてしまった。
王様がユニを膝に抱き、
ユニが白猫を膝に抱いたままでした話。
宣旨がすでに公文書化されたこと。
数日のうちに、ユニの元に使者が立つこと。
その3日後が日取りが良いので、
結納の品が届くこと。
婚儀の日取りも
「最も早い日を調べさせた。
本日より半月後だ。
余はその日を指示した・・・。
それで、良いな?」
段取りは使者が伝える。
そなたはその指示通りに、
余の元へ参れ。
花嫁衣装も、後宮で見劣りしない用意も、
すべて用意させてある。
「私は・・・こんなに甘えたままで
王様にお仕えするなんて・・・
許されるのでしょうか?」
話が進むたびにおびえた様子を見せたユニ。
王様は白猫を驚かさないように、
静かにユニを抱き寄せた。
「そなたのその身一つが欲しいのだ。
そなたは何も案ずるな。
余は・・・」
そなたを抱いて、
初めて男になるだろう。
最後の言葉を飲み込んで、
震えるユニを、
王様は優しく抱きしめた。