私の旦那様~ジェシン特別編~ | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

 
 バスッ バスッ バスッ
 
 遠くから聞こえる矢の当たる音で
 ユニは目を覚ました。
 
 上掛けの下には、身に何も着けていない
 自分の身体がある。
 気怠く寝返りを打ち衣服を探るが、近くにはない。
 
 少し体を持ち上げて寝室を見回すと、
 部屋の隅の方に放り投げられた肌着や寝衣を見つけた。
 
 ユニは布団の中で赤面した。
 ユニの旦那様は、ユニの衣服を取り去る時、
 ポイポイと放り投げてしまうのだ。
 自分の衣服など引きちぎるように脱いでしまう。
 睦言に疲れてユニが気を失うように眠ってしまうので、
 いつも起きると素裸の自分を見つけてしまう。
 
 まだ朝早い。
 朝の薄い光の中で、ユニは布団を巻きつけて
 衣服を拾い集めた。
 気怠い体の節々を気にしながら、肌着を身に着け、
 部屋の隅に用意してあった衣服をのろのろと着おえた。
 
 ユニはこのムン家に嫁いできて十年が過ぎた。
 三人の子供も生まれ、優しい夫ジェシンに愛されて
 穏やかに暮らしている。
 長男と二男の学問を手ほどきしたり、まだ幼い
 娘の世話を乳母と共にしたり、ジェシンの両親の
 世話をしたりと、案外忙しい。
 
 しかし、ジェシンが休みの日の朝は、
 ユニの朝はジェシンだけのものと決まっている。
 子供たちも、舅たちも、下女ですら呼ばない限り
 ユニとジェシンの寝室には近づかない。
 いつのころからか、暗黙の決まりになっていた。
 
 でも、結局旦那様が一番早起きじゃない。
 そしてその次が私。
 
 ユニは恥ずかしいやらおかしいやら、複雑な気持ちで
 ジェシンの着替えを用意する。
 そして、火鉢の火で沸かした湯をうめて、自分の
 顔や襟元、胸元をさっと拭った。
 化粧をうっすらと施し、髪を結い直す。
 胸元に残された昨夜の名残の花びらの跡を、
 襟元をきつく締めて隠してから、ほうっと息を吐いた。
 
 きつく締めた自分の襟元を鏡で見ながら、
 ユニは微笑みを浮かべた。
 
 ジェシンはきつい襟元が嫌いだ。
 朝、出仕するときは、ユニが全部点検して、
 きちんとした身なりで屋敷から送り出すのに、
 帰ってきたときは、襟元は緩み、帯はいがみ、
 サモ(官服の帽子)はずれているか、手に持っているか、
 ちゃんと頭に載っていたことがない。
 よく注意を受けないものだと心配している所に、
 遊びに来たヨンハがユニの驚くような話をした。
 
 ジェシンは、幼い王世子に気に入られており、
 詩を目の前で書いてくれと呼び出されることが
 よくあるらしい。詩の先生は別にいるが、
 生きた詩を目の前で書いてもらうのも勉強だと
 王様が勧めたらしく、王世子も気に入っているそうだ。
 
 「まさか、あの格好で・・・」
 
 ユニが心配そうに聞くと、ヨンハが笑って言った。
 
 「やっぱりテムルもそう思うだろ?
  だけど、コロの周りの奴らはコロに注意できないし、
  触れないんだ。怖いらしいぜ。
  だから俺たちが大変なんだよ、その時は!」
 
 側にいるジェシンは、フンと横を向いている。
 
 「お呼び出しがあったら、なぜか俺やユンシクのところに
  人が来るんだ。仕方ないから、急いでコロのところに行って、
  無理やり官服を整えてやるんだ。二人掛りで。
  最後に、カランに使いをやっておいて、会う直前の
  ところで点検してもらうんだ。そうでないとすぐに
  襟を緩めてしまうからな!」
 
 大げさなんだよ、と悪態をつくジェシンを呆れた顔で
 見ながら、ユニは思わずその様子を思い浮かべて
 笑ってしまった。
 笑い事じゃないんだぞ~、と言いながら、
 ヨンハも笑っている。
 スミマセン、お世話をかけて、というユニに、
 俺はコロに触れるからいいけどな~、と
 相変わらずの軽口が帰ってきて、
 ユニはうれしくなってしまう。
 
 矢の当たる音が聞こえなくなった。
 ユニは奥の寝室から居間に滑り出て、
 ジェシンを待った。
 大きな影が扉に映り、足音高く入ってくる。
 ユニを見て微笑み、起きていたのか、と
 長衣の帯を外す。
 
 汗だくの身体。逞しい胸板に首筋から汗が
 流れ落ちてくる。
 ユニが渡したおしぼりで顔を拭くジェシンの
 側に寄り、ユニは背中を優しく拭いてやる。
 広く大きな背中。
 何度もユニを背負った、男の背中。
 
 いい加減にジェシンが拭いた首筋や胸も
 もう一度拭ってやっていると、
 ぐいっと抱きしめられた。
 そして優しく口づけられる。
 
 寝ていればいいのに。
 
 ニヤッと笑うジェシンの顔を赤面しながら
 ユニは睨む。
 
 寝てくれていれば、また布団に潜り込んでやるのに。
 
 膨れながらユニが、ダメです、と口答えをすると。
 またニヤッと笑って抱きしめる。
 
 元気だな。じゃあ、今夜も楽しみだな。
 
 知りません、とバタバタ暴れるユニを抱く手は
 びくともしない。
 もう一度、今度は深く口づけられて、
 ユニはおとなしくなった。
 
 それで今日、俺は何をすればいいんだ?
 
 今度は微笑みながらユニに尋ねる。
 優しい旦那様の顔に戻ったジェシン。
 
 ヨンシンが弓を引きたいと言ってましたわ。
 それに・・・、私も子供たちの服の布地を
 買いに外に出たいの。
 
 わかった、と答えたジェシンはユニを放した。
 ジェシンに次々に衣服を着せかけてやる。
 一応ちゃんと着せはしたが、着終わったところで
 やっぱりぐいっと襟を緩めてしまった。
 髷も、このままでいい、と緩めたままだ。
 
 旦那様、朝餉まで子供たちを見ていてくださいね、
 というユニに、うなずいて部屋を出て行くジェシン。
 
 ユニはジェシンの脱ぎ捨てられた衣服を
 たたみながら、ジェシンの香りに包まれていた。
 今から始まる、今日の家族の幸せ、
 そして夜になると訪れる妻としての幸せ。
 
 すべて旦那様が私に下さったもの。
 
 ユニはジェシンの温もりが残る唇に
 指を這わせながら、しばらくジェシンの衣服を
 抱きしめていたのだった。
 
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