小さな恋の物語 ヨンハ編 その7 | それからの成均館

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『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

 

 

 ヨンハは、別便で沢山届けられたとはいえ、都の本邸とは違い貧しい量の本の中から、説話集や伝記物を選りだした。ヨンハからしたら別にあげても良いぐらいに思っているが、あの様子だと、とユニの事を考えると其れが不可能だとは分かっていた。

 

 野草採りにかこつけた外出でしか会えないのだ。ヨンハと会ったことなど、当然家の人、両親に言うわけがない。となると、こちらから何を持って帰らせるわけにはいかないのだ。本はなかなかに金のかかる買い物だ。持って帰って誰に貰った、なぜ貰った、どこで知合った、どうして黙っていた、なんてはしたないことを、と言われるのが目に見えているのだろう。話を多少聞いただけでも、なかなかに厳しい母親だと分かる。其れが、礼儀や言葉遣いの面では良い結果になっているが。

 

 ユニの品の良さは、教育のよさでもあるだろう事はよく分かる。あの短い出会いの日の時間だけでも、ユニがいかに両班の女として育てられたかは良く分かった。けれど、家の貧しさはユニに外に出ることを余儀なくさせていた。母親にとっても本来は不本意な事なのだろう。なるべく外出の機会を少なくするために、三日以上は日にちを空けることにしているのかもしれない。本来両班の令嬢が家事仕事を含め、外に出ること自体がないのだ。

 

 おそらく両班の子弟として育てたいと思う理想と、特に娘であるユニに令嬢としての生活をさせてやれない現実が、ユニの母親をさらに厳しくさせているのだろう。けれど優先されるのはどうしても生活に直結すること。しかしヨンハはそれが悪いことだとは思えない。

 

 金が、生活が円滑に回ることが、全てを良い方向に向けることができる、それは、ヨンハが育つ中で見聞きしたことで芽生えつつある信念の一つだ。生活に余裕がなければ、家族間もぎすぎすするし、最悪は子供を売るハメになる。自分の母がそうだったのだから、ヨンハにとっては他人事ではない。

 

 それに、とヨンハは本を揃えながらユニの事を思った。輝く大きな瞳、高くはないがすっきりとした鼻筋、桃色の小さな唇、艶やかな黒髪、その美しさは両班の女人のものだった。いや、両班の血の流れている娘だからこそ持っている美しさだとヨンハは感じた。ユニの品の良さは、生まれ持ったものなのだ。そこに母親から受けた教育が良いように身につき、益々磨きをかけたのだ。家事をしているから、令嬢にあるまじき行動である外出をしているから、などという事で揺らぐようなものではない。何十年、何百年、続いてきた血なのかは知らないが、ユニを形作る一つの要素として、その血脈は非常に大きい割合を占めているはずだ。

 

 ヨンハはため息をついた。時々こうなる。ヨンハにとって血は呪いだ。決して自分には手に入らない、両班の刻印だ。自分には半分しかないのだ。

 

 学堂ではじめてできた友人は、非常に勢力の大きい家の子息だ。次男坊だから、あまりがつがつしておらず、周りの同じ派閥の子弟達とつるむこともない、多少一匹狼的な無愛想さが気に入った。かといって話しかければ普通に返事をしてくれるし、その少年に突っかかった相手は、一瞬でのされていた。腕っ節も強かった。言葉遣いも、子供同士の時はなかなかに投げやりで乱暴ないい方をする。けれど、師匠に対する言葉使いは完璧だった。ちょっとした仕草が美しいのだ。本人は何も意識していないのに。あれが生まれなのだ、育ちなのだ、とヨンハは思い知らされた。かといってその少年のことは好きだが。ヨンハのことを誰かが吹き込んでいるだろうに、彼はちっとも態度が変わらない。ただ、あのときも生まれ育ちを意識したとたんに数日落ち込んだ。やはり俺は半分しか両班の資格はないのだと。

 

 その消えない呪いがまたヨンハに覆い被さる。

 

 頭を振る。短期間だけだ。この別邸にいる間の話し相手なだけだ。俺がここから都に帰れば、俺もユニ殿のことは思い出になるし、ユニ殿は俺の事など忘れるだろう。だから、短い間だけ、仲よく・・・そう仲よくできれば良いんだ。

 

 

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