貴方の胸に思いもかけず受け止められたとき、私は自分の格好を呪ったの。
けれど貴方は私自身を見つけてくれた。そして私は明日、貴方の元へ嫁ぐ。
もし発覚すれば死が待っている、そんな覚悟で受けた小科初試。もちろん、女人としての自分は捨てたはずだった。かけらでもそんな意識を持っていたら、やっていけないのは分っていたから。
けれど、私は女なのだと、貴方は私を胸の中に入れて守ることで私に忘れさせてくれなかったわ。
女一人で殿方の群れの中に立っていることは困難だった。波のように押し寄せる受験者達に押されて流されてたどり着いたのが貴方の胸の中、いいえ、貴方はよろめく私を見かねてかばってくれたのでしょう。
その時、ふと見上げた貴方の胸の中、目に飛び込んできたのは白く艶やかな肌の喉に逞しく浮き出たのど仏だった。
私がどんなに髪を短く切っても、男の衣服を身につけても、声をできるだけ低く響かせて話すようにしても、大股で歩くようにしても、どうしてもまねのできない男らしさの象徴。それが目の前にあった。
でもね、ソンジュナ、私はそれを見て本当は自分の無謀さに気づかなければならなかったのに、ただ貴方の男らしさに目を奪われただけだったの。ああ、なんと逞しい、と。そして更に視線を上げていったところにあったのが貴方の綺麗な顔だった。
私は、白皙の貴公子なんて物語の世界にしか存在しないと思っていたわ。筆写の仕事で請け負った草子の中には沢山出てきたの。目鼻立ちが綺麗で逞しくて男らしい、優しくてさわやかで、女人をそれは大切にする殿方。絶対にこの世にはいないと思ったわ。それまでに私に持ち込まれた縁談は、脂ぎった太った中年の人や、ずるそうな顔の両班、いやらしい笑顔の年寄りだったもの。貴方にはいわないけれど。多分とても怒りそうだから。貴方は私にとても甘いわ。私は今もとても心配になるの、私が貴方にそんなに大切に思って貰えるほどの価値のある女人だろうかって。
ああ、話が逸れたわ。そう、私を抱き留めた貴方は、草子に出てくるような美しい殿方だった。私を抱き留めて助け、大丈夫かと心配をして、そして試験を受けるのなら一緒に門内に入ろうといってくださった。その時私は貴方を天下のイ・ソンジュン様とは知らなかったの。もしあのとき貴方を知る女人がその光景を見ていたら、たとえ私のことを男だと思っていても嫉妬したのでしょう。都一の貴公子ですもの。無知とは偉大だわ、私はその幸運を知らなかったのだから。
貴方は知らないと思うの。初試が終わってさらに貴方と別会場で試験を受けて。そして小科の放榜礼で貴方に再会するまで、私は貴方を忘れられなかったわ。貴方の優しい私への扱い、初試の問題を仕上げる驚くべき速さ、そしてその美しく逞しい男らしい魅力に溢れた容姿、全てが私に刻み込まれて、私は貴方に会うことを夢に見、そして会うことを恐れた。だって私は本当は女人で、女人なのに男装で名を騙って小科を受けて、貴方の前に真っ直ぐに立てる身ではなかったから。
でも貴方に会いたかった。
だから夢の様なの。貴方の隣に立った小科の放榜礼。まさか次席で通るとは思っていなかった。当然のように貴方は壮元だったわね。あのとき、貴方の隣に緊張の糸が切れそうなほど張り詰めて立った私だけれど、まさか明日、花嫁として貴方の隣に立てるなんてかけらも想像できなかったのよ。
あのとき、自分の努力の結果をもって貴方の隣に立てた誇りと共に、貴方に女人として自分を見て貰うことは全て諦めたのだから。
思い返せば、私は貴方に抱き留められたあのときから貴方に堕ちていた。もうそれだけで十分だったはずなのに。恋などできないだろうと思っていた私。恋心を知ることができただけでも、女人として本望だとおもわなければならなかったのに。
明日、貴方の妻になる。恋は叶うのだと貴方が教えてくれた。貴方が私自身を見つけてくれた。
ありがとう、ソンジュナ。私はイ・ソンジュンの親友から、イ・ソンジュンの花嫁になります。今夜は眠れそうにないの。貴方との思い出が渦巻いて、私の胸のなかで暴れ続けているから。