他人事ではありますが その20 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 今日は予約の客が少ない。が、こういう日に限って忙しくなったりするんだ。俺はスタッフの動きを見ながら、料理を仕上げていく作業に没頭した。今日はメインディッシュが三品のうちから選べるコースを設定してる。ディナーは基本コース料理しか承らない。種類が分かれるのはメインディッシュとデザートだけだ。デザートは担当が決まっているから俺は気にしなくていいが、昨今はアレルギーに関する原材料の問い合わせが来るから気を遣うことが増えた。そう思いながら前菜を皿に盛っていると、フロアチーフ、まあこのレストランのボスだな、が厨房に顔を出してちょいちょいと俺を呼んだ。

 

 何かあったのかよ、と顔を突き出すと、いつも何だかチャラい雰囲気のこの男が何だか焦った顔をしている。こりゃややこしい客が来たな、と身構えてると、チーフも俺の方に身を乗り出した。ちけえよ。ただでもこいつは少し言葉遣いが女っぽいんだ。接客業としては物腰柔らかで丁度いいのかも知れないが、俺にとったら頼りなく感じる。が、こいつは中々しぶといやり手で、こいつがチーフになってから客からのクレームが減った。味には自信があるが、自分の好みを押しつけて文句を言う奴がいるんだ。新しい味覚を楽しむぐらいの余裕が欲しいよな、と常々思っていたが、このチーフは料理の説明を手短に、だが確実に伝えるという給仕の教育を徹底してくれたんだ。ちょっと女っぽいぐらいは勘弁してやらなきゃならねえ。

 

 んだよ、何かあるのかよ。

 シェフ~、今日は気を引き締めて頂戴よ~。

 だからなんだってんだよ?!

 大変なお客様をお迎えいたしました、んだよ!

 

 最後は俺の口まねをしやがった。焦った顔の割には余計な遊びを入れやがる。お前結構余裕があるだろ、そう言ってやると、ない!絶対ない!大変なのよ~!といつも通りのカマくさい言葉遣いに戻しやがった。

 

 あのね、うちのホテルの親会社の跡継ぎさんがご来店なの~!

 ふうん。でも今日のコースのメインは変えねえぞ。

 そんな事いってないでしょ!

 じゃあ、何が大変なんだよ?

 

 手を止めて相手してるわけにも行かないので、やりかけの前菜の盛り付けを再開した。プレートに盛り付けるだけなんだけどな。今日の前菜は夏野菜のゼリー寄せだから先に作って冷やしてある。それを彩りよくソースや飾りのリーフで盛っていくだけだ。

 

 さっさと言え、そろそろメインの調理が多くなるんだよ。

 ああ、ごめんねえ。だから、跡継ぎさんが彼女を連れてご来店なの~。多分ご結婚までいくだろうって噂の彼女!だから粗相は・・・。

 てめえ俺の腕を疑ってんのか?

 それはないの!ただ念には念を~~。

 

 うるせえ、と睨み付けてやった。俺は俺の料理を食べて頂く方には、誰の分であろうとちゃんと作るんだ。肩書きによって熱意を変えたりしねえ、知ってるだろ、忘れたのかよ、そう言ってやるとチーフは安心したように笑いやがった。

 

 うん、知ってる。君のその言葉聞いて安心した、うん、いつも通りだねえ、おっけ~。

 

 へらりと笑ったチーフは、うんうん頷きながらフロアに戻るそぶりを見せたが、またおれの方を振り向いた。

 

 ま、大丈夫なのは分ってたんだけど、僕がちょっとテンパっちゃった。今からホテルの支配人が挨拶に出向いてきそうだし・・・。

 じゃあ、はやくフロアに戻れよ、支配人来ちまうぜ。

 

 確かにホテルの一番偉い人が挨拶に出向くぐらいだ。緊張したのか、と少し同情してやったんだが。

 

 そうそう、キムさんをウエイターにつけるよ。今ワインを選んで貰ってる。料理はシェフの腕を信じてるし、俺は楽でいいや。

 

 とのたまいやがった。うるせー、俺はいつだって誰にだって腕を揮ってるわ!

 

 でね、俺が呼んだら出てきてね。テーブルに挨拶、よろしくゥ!

 

 妙なしなをつくった手を振ってフロアにチーフは逃げやがった。まあ支配人が来る頃合いなんだろうが。

 

 最近、客の前に挨拶でなんか出ていなかった。それぐらい重要な客だということだろうな。女連れの若造だろ?跡継ぎだからってそこまでしないといけねえか?

 

 そんな事を考えてたら雑念が料理に影響を及ぼしそうなので、頭を振ってチーフの言葉を振り払い、目の前の料理に専念する事にしたんだ。

 

 

 

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