貴方の香り その16 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシンの掌が捕えたのはヨンハの側頭部。ばちん、という音と同時に、掌をぐっと押し出し、ユニからヨンハの顔を遠ざけた。少々力がこもったのは仕方がない。人の女に口説き文句を垂れ流すてめえが悪い。

 

 無言のうちに行われたこの行為に、ユニは目を見開いたまま硬直していた。まあ、乱暴じゃないとは言わないが、ヨンハはこれしきのこと、昔から日常茶飯事だ、俺といたら、とジェシンは平気な顔でヨンハをぶったたいた手を下ろし、ベンチの背もたれに這わせた。ついでに少し浮かせていた腰をユニに近づけながら下ろす。ベンチの背もたれ側から見たら、彼氏が彼女の肩を抱いて入るぐらいの図にはなるだろう。実際はどこも触れていないが。

 

 ヨンハが来るまで、いい雰囲気だったのはヨンハの言うとおりだ。分ってたなら声をかけずにどこかに行けばいいのに、そこでデバガメしてくるところがヨンハの意地の悪いところだ。こっちが怒るのを楽しんでいる風がある。実際のところ、そんな扱いをするのはジェシンにだけだが。そして、ジェシンが思いっきり報復してくることも知っていてやっているのだ。マゾか。毎回殴られて、よくも飽きないものだ、とジェシンはその点は感心すらしている。

 

 とはいっても、ジェシンはヨンハとは半月ぐらいまともに会っていない。ジェシンは三回生でも講義を沢山とっているし、出席もちゃんとしている。一方ヨンハは、上手に単位を取りこぼすことなく順調に出席とサボりを組み合わせているらしい。それは自分で言っていた。ただ、ヨンハに関しては、就職に心配がないので、人とは比べられない。国の中でも勢力の強い財閥の御曹司、それも一人息子だ。ついでに言うと、その辺りの二世よりよっぽど優秀ではある。大学の成績もいいし、成人してからポケットマネーで始めた株式投資でかなり儲けている。目の付け所と引き際がいいらしい。市場調査のまねごとだよ、と笑っているが、行き当たりばったりに投資しているわけではないのがヨンハのこわいところだ。裏をとったうえでのその行動は、百戦錬磨のトレーダーのようだ。今も肩から提げているヴィトンのトートの中に、彼の情報源であるスマホとタブレットがあって、値動きをに把握できるようになっているのをジェシンは知っている。ヨンハは忙しいのだ。大学生らしからぬことで。その頭脳で経済活動を実践しつつ、趣味である女遊びも怠らない。これも金がかかるから、中々学生ではできない趣味だ。しかし、恋人がたくさんいるのではない。遊び相手がたくさんいる、という女遊びだ。最初に言うのだ、遊びだよ、恋人じゃない、結婚も全く考えていない、俺の事を好きになったら言って、別れるから。こんな不誠実な男に女は群がる。楽しく遊んで上げたら、そこらの男より贅沢に遊べるのだ。飲み食いに贅沢はさせてくれるし、泊まるホテルは一流、遊ぶ金も全部持ってくれる、誕生日や進学、就職などのイベントがあれば高価なプレゼントだってぽん、とくれるのだ。

 

 その、久々に会った親友に殴られても、ヨンハは全くしおれることなく、のけぞった姿勢からバネのように戻ってくると、

 

 「コロ!ひどい!俺の商売道具の顔に何かあったらどうしてくれるんだ!」

 

 という文句をちゃんとお返しする。そしてジェシンは、ふん、と顔をそらして返事もしない。目を見張ってきょろきょろと二人の顔を見比べてしまうユニだけがうろたえている。

 

 「そのばかはほっとけ。無視してたら、そのうちそこらの女を引っかけにふらふらとどっかにいくから。」

 

 「おい、俺をどんな男だと思ってるんだ?」

 

 「女誑しのスケコマシ。ああ、おんなじ意味だな。」

 

 ヨンハはジェシンに思い切り殴り押された側頭部をさすりながらベンチの正面に回り込んできて、わざわざユニの隣へと軽やかに腰掛けた。そして、身体をちゃんとユニの方へねじ曲げ、真正面からユニを見つめてきた。なので、ユニは少しばかり困って、身体を反対側へ寄せた。すると左肩に弾力のあるものが触れた。ふ、と顔を向けると、思わぬ近さにジェシンが座っている。触れたのはジェシンの胸の辺りだ。元の位置に戻ったらヨンハに近づいてしまう。この場合、特に男性に免疫のないユニがとるのは、もちろん、よく知っている方へ身を寄せておくことだ。ごめんなさいジェシン先輩。でもジェシン先輩の方が安心なのだもの。

 

 モジモジとするユニを、おやまあ、とからかうような顔で見たヨンハが顔を上げると、ユニの頭の向こうで、ジェシンがこちらを見ながら、片眉を威嚇するかのように上げているのを見つけて、ヨンハはおもわず破顔した。

 

 

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