㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
ユニの服装は派手なものではない。逆に学生らしすぎて仕方がないぐらいあっさりしている。今日のジェシンの格好に似ているぐらいだから、どちらかと言えばボーイッシュだと言ってもいいだろう。
ジェシンは白い綿シャツ。ボタンを三つほど開けてありあっさりとそれ一枚で過ごしている。ボトムスは真っ黒のジーンズ。スキニーではないが足の太さにピッタリと合ったもので、バックルがメタルの少し厳ついベルトが、緩く裾を入れているシャツのたるみの間から見えるようになっている。ワークブーツははげかけたカーキで、講義の道具を入れたバックパックは合皮だが少しいいブランドのものを使い込んだものだ。ジェシンは着るものを沢山欲しいタイプではない。だからといって拘りがないわけではない。着る毎に身体に合っていくものが好きだ。だから、数は持っていないが、上質のものが多い。例えば今日の綿シャツだって、おそらく周囲の者が着ているのよりは少々厚手だろう。最初は衿や袖が固かった。しかし、今はジェシンの首回りに添い、それでも布はヘタれずにしっかりと後ろ首にそって立っている。胸ポケットもよれたりしていない。もちろん今日は着ていないが、普通のTシャツだって首回りが伸びるものなどないのだ。
ユニも今日は白いシャツを着ていた。ジェシンと違い真っ白ではない。自然な生成り。シャツカラーのボタンはジェシンと違い一つだけ外されている。その下はスキニージーンズ。色は浅いブルー。デニムらしい色。ジェシンと違うのは、カーデを羽織っていること。しかし、ジェシンが初めて会ったときに見た、だぼついた芥子色のものではなく、薄いピンク色で細い糸で編まれたフェミニンなものだった。丈も長くはない。丸首のカーデは前のボタンは全部外れていて、腰の辺りに身幅の余裕がある。シャツはレディスらしくダーツでウエストがシェイプされていて、カーデの前が揺れる度、その腰が細いことがよく分るラインを醸し出している。靴はローファー。薄いレースの靴下をはいているのが少しばかり見えている。
どうやってそんなおしゃれを覚えた、とジェシンはユニを眺めて少々問いただしたい。容姿が優れているのは最初から分っていた。あの野暮ったいいかにも大人のお下がりを着ていますといったような格好でも、ユニは綺麗だった。だから、本当はあまり変わって欲しくなかった。ジェシンの周囲にいるいかにも青春を謳歌している女子学生といった格好や化粧はして欲しくなかったし、ユニには似合わない気がしていた。それぐらい、図書館で本をめくるユニは気高さを感じるぐらいの聡明さに包まれて見えたのだ。
けれど、これはこれで、とジェシンは納得している。良く似合っている。清楚さと、妙な色気を出そうとしていないあっさりとした清潔感、それがユニの性格を表しているように思えた。それなのに。
それなのに、男というものは嗅ぎつけるのだ、女の匂いを。
俺が目を付けていたのに、とジェシンは煙草を消すためにジーンズのポケットに手を入れた。大学構内は基本禁煙だ。吸っている者はたくさんいるから無法もいいところだが。けれど、さすがに吸い殻をまき散らすほどジェシンは不作法ではない。携帯灰皿を出し、そこに吸い殻を放り込むジェシンを、ユニは目を丸くしてみている。
さてと、とジェシンは考えた。
さっき、思わず言った「俺の女」という言葉。正直、本心がこぼれ出たに過ぎない。
何しろ、図書館で初めて見たときから、自覚してきたのだから。
俺は、こいつに惚れたのだ、と。
それを認めるだけの恋愛経験がないために、ユニを観察するという変な期間が生じたが。それのおかげで、ユニが自然に女として変身して行く姿を緩やかに眺め、そして羽化する前にこうやって彼女と自然な形で接触する事ができたのだ。このチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。ジェシンのただ一人の親友と違い、ジェシンは恋はただ一つ、1回だけでいいと思っている男だ。
「・・・悪ぃが、さっきの奴らが口を閉じているとは思えねえ。お前が俺の女だって言いふらすかもな。まあ、お前が厭なら否定してくれればいいが、否定すりゃ、またあいつらみたいな男がナンパしてくるかもなあ・・・。怖かったろ?」
「・・・はい、怖かったです・・・。」
ジェシンの口角がひっそりと上がった。