隣に座っていいですか? その26 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。

  ご注意ください。

 

 

 ユニの言葉は全て正しい。どこにも間違いはなく誇張もない。ソンジュンとユニの関係そのままだ。

 

 だから、そんな視線はいりません、って。哀れんでいるのが丸わかりですよ、ヨンハ先輩。ジェシン先輩も、視線を今更そらしたって無理ですよ、見ましたよさっき、残念そうな顔しましたよね。

 

 ユニは答えて満足したのか、小鉢のナムルをニコニコと口に入れている。斜め下にある横顔。かわいい。もぐもぐと動く頬がリスみたいだ。ソンジュンも初めて一緒に食事をしているわけだが、ユニは物怖じすることなくぱくぱくと美味しそうに食事を勧めている。遠慮も格好も付けずに。健啖、という言葉がピッタリの気持ちのいい食べ方だ。

 

 比べられないシチュエーションかもしれないが、パーティで会う女の子達の食べ方とは全然違う。ソンジュンが出席させられるのは、立食形式のものが多いのだが、喋ることがいやで食事を勧めても、「食欲がなくて。」とか「あまり量が食べられないんです。」とか言って、ものを食べている姿を見ることが少ない。クラスメイトの馬鹿話の中でも、ダイエットしているから、とか定食を半分以上残すんだ、などという話を聞くことがある。「それが可愛いと思ってるんだよなあ。」とはナンパが趣味のような男の言だが、その後の皆の会話にソンジュンはおおむね賛同している。

 

 「一緒に食ってても、食った気がしねえんだよな。」

 「そりゃ、三人前とか五人前とかを食われりゃちょっと引くけどなあ。」

 「飯は美味そうに食ってくれた方が、いいよな。」

 「そうそう、沢山食ったら、沢山運動すりゃいいんだ。」

 

 そこからは少し下世話な方へ話が流れていったが。言いたいことはよく分ったから、ソンジュンも男としては並みの感性を持っているのだろう。

 その点、ユニの食事の風景は非常に気持ちいい。何よりも美味しそうだ。一口分も、ちょびちょび、という食べ方ではなく、ぱくり、という感じだ。それがまた美味しそうな雰囲気を作り出しているのだろう。

 

 ユニを見て少々現実逃避をしたわけだが、前に座る、悪鬼のような先輩はニヤニヤと笑い始めていた。一瞬こちらに向けた哀れみの視線はどこに行ったのだろう、とソンジュンは諦めてご飯を口に入れた。

 せっかく隣に座っているのに、とご飯を噛みしめながら思う。さっき見た、もぐもぐと頬を動かすユニの横顔は可愛らしかった。確かに。隣に座った甲斐はあった。うれしい。けれど、それはソンジュンが望んでいる隣の席とはちょっと違う。

 

 あの静謐な図書館で、夕暮れの空が美しい窓枠をバックに、まるで時を止めたかのように背筋を伸ばして机に向かう、あの奇跡のような一瞬、ソンジュンの視界にピッタリとはまったあの情景を隣で。

 

 それがソンジュンの憧れる、ユニの隣の席、だ。

 

 まだ叶っていないその場所に行き着くには、自分がユニにとってどんな関係の人間になっていればいいのか、それはよく分っているのに、そこにたどり着く自分を想像できない。今のところ全く一歩も踏み出していないし、それを目の前の先輩に勘づかれているのが、今のソンジュンの哀しい状況だ。

 

 「そうなんだ~。実は俺さ、君たち二人を見たとき、とうとうソンジュン君にも春が来た!彼女を作ったんだ!と思ったんだよ~。ソンジュン君ってさ、女っ気がないことで有名なんだよね。女の子の友達としても、君が初めてなんじゃない?」

 

 ク・ヨンハはやっぱり鬼だった、とソンジュンは身体を硬くした。はっきり口にしてきたのだ、彼女、というフレーズを。ここでユニに何らかの意識を変にされてしまったら、ソンジュンにはどうしていいか分らないというのに。

 

 「男子校ですものね。私も女子校なので、男の子で喋るのは弟の友達ぐらいです。小学校とか中学校とかの時の同級生も、高校が別になったら会うこともないですし・・・今は、男の友達としては、ソンジュンさんだけです。」

 

 きょとんと答えたユニを見、ソンジュンを見て、ヨンハはしばらく黙っていたかと思うと、愉快そうに声をあげて笑い始めたので、ソンジュンとユニはヨンハを驚いて眺め、ジェシンは厭そうな顔で箸を置くと、大きな手でヨンハの後頭部を思いっきりはたいた。

 

 

 

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