㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
ヨンハは断れない状況があると言うことを熟知しているのだろう。
ソンジュンは悪目立ちすることは苦手だし嫌いだ。ユニだって無用の騒ぎの中に自分がいるのは厭だろう。
つまり、オープンキャンパスという人の多い場で、高校時代の先輩後輩という立場を最大限に利用して、先輩が自ら案内してやろうという親切な申し出を、人前でソンジュンが断ることはないとヨンハは踏んでいるのだ。大声で叫んでいるわけではないし(ジェシンが耳を引っ張ったときには悲鳴を上げたが)、ヨンハに関しては楽しそうに喋っているこの状況なのだが、いかんせん、いる人間のせいで目立ち始めている。
男三人が目立つのだ。
背が高い、見目がいい。外見上、ソンジュンとヨンハ、ジェシンは極上の青年だ。横を通り過ぎていく人は必ず振り返る、眺めていく。もちろんちょっとばかり立ち止まって様子を見ようとする女子学生もいる。学舎のホールのど真ん中で話をしているのだ。見てくれと言わんばかりの場所で、見るなと文句を言えるわけもなく、人の流れを阻害してるのは逆に自分たちの方だ。
ソンジュンは諦めて、ユニの方に少し屈み、小声で言った。
「・・・早いけど、見学がてら学食に行って、お昼を食べようか?混むだろうし、ここで何だか足止め食っちゃったし・・・。」
何より、ここから離脱する理由が欲しかっただけなのだが、小声の内容を正確に聞き取ったヨンハが、満面の笑みで張り切りだし、ユニよりも先に勝手に答えてきた。
「それがいい!皆、ここに来た勢いのまましばらくは見学して回るからさ。今の間にランチって、ソンジュン君は目の付け所がいい。よしよし、このク・ヨンハ様が学食に案内しよう!今日はオープンキャンパス用の定食が用意されているはずだし。さ、行こうか!コロ!お前も一緒に行こうぜ。この成均館大学のいいところを、しっかりとレクチャーしてあげようじゃないか!」
「いえ・・・俺達はそんな手間をおかけしなくても・・・。」
「気にしない、気にしない!ユニちゃん、こっちだよ。ほら、ソンジュン君が一緒なら怖くないからね~。」
「・・・てめえ、その子は小さい女の子じゃねえんだぞ、何だその言い方は。」
「お前が俺に乱暴な事して怖がらせたんだから、優しくしようと思ってるんだよ!」
「気持ちわりいだけだろうが・・・。」
「・・・あの・・・。」
男達の言い合いの中に、高い声が割り込んできた。三人が一斉に見たのは、ユニの方。ユニは一斉に視線を受けてびく、と目を大きく見開いたが、ソンジュンの袖口をぎゅと掴んだまま又口を開いた。
「・・・早く行った方が混まないんですよね・・・学食?」
目を見開いたまま言うユニを見て、最初に笑い出したのはジェシンだった。
「ああ。その通りだ。俺は待つのは嫌いだからさっさと行こうか。今を逃せば、次に食える時間は二時三時になるし、そんな時間まで飯を我慢するのは気にくわねえ。」
おら、行くぞ、と顎をくい、としゃくってジェシンは歩き出した。ヨンハはにっこり笑うと、事もあろうにユニに向かって手を差し出す。ソンジュンまでびく、としてしまったが、ユニは益々ソンジュンの袖口を握りしめて身体を少し隠した。それをみて、ヨンハは苦笑して手を引っ込める。
「冗談冗談。さ、本当に混む前に行こうか。ソンジュン君、ユニちゃんをちゃんと連れてこいよ。」
そう言って、ヨンハはジェシンのあとを追った。ソンジュンはため息をつくと、ユニを改めて見た。ユニは戸惑ってはいたが、行きましょ、と笑うとソンジュンの背後から身体を出した。隣に並んで一緒に歩き出す。
けれど、ソンジュンの袖口は掴んだまま。それが少しばかり嬉しくて、お邪魔虫がいることは気にいらないのに、ちょっと高揚した気分も感じながらヨンハとジェシンの後を追った。