㊟成均館スキャンダルの登場人物による現代パラレル。
ご注意ください。
初ラインは、待ち合わせ場所を決める為の会話。二日後のオープンキャンパスに備えて、最寄りの駅で午前9時に落ち合うというあっさりしたもの。ソンジュンは、その無料通話アプリを今までスマホにインストールしておらず、ユニに言われてすぐさまその場でスマホを操作したのだ。
クラスメイトの電話番号が入っているから、次々に通知が来たが、面倒なので全て無視し、ユニのものだけ開いて使っている。
スマホがこんなに便利なものだとは、とソンジュンは初めて感謝した。
ソンジュンのスマホ使用率は、同世代の中ではダントツに低いだろう。緊急連絡用、家族への連絡用、位にしか思ってもいないし、使ってもいなかったのだ、実際。通話した履歴は、自宅、またはスンドリの名しか上がってこない。充電すら忘れることもしばしば。それなのに、水曜日にユニの連絡先を聞いてからは、帰宅してすぐに充電器に接続。連絡先を交換したときに、ユニが試しに、とかけてきた着信履歴を何度も眺めてしまった。多分締まりのない顔をしていたに違いない。ノートPCも自室の机の上にあり、何か調べるときはそれを使っているが、せっかく手に持っているスマホなのだから、とGoogleを起動して、オープンキャンパスの時間配分や、待ち合わせに良さそうな場所を探すことも簡単にできることを発見してしまった。そして、決めたことや提案をすぐに同じ機械から発信できることも。一気にユニとの距離が縮まった気がして、ソンジュンはすっかり有頂天になった。
有頂天になったついでに、待ち合わせして一緒に歩く二人の姿を思い浮かべる。駅から外に出て、と思った瞬間に気になったのが天気。そこで即座にスマホで調べた週間天気予報では、快晴の予定。ソンジュンの脳裏には、青空の下、仲よく肩を並べて歩く自分たちのシルエットが浮かんで、まただらしなく頬が緩む。
そこではた、と気づいたのだ。思い浮かべた二人の姿は確実に自分たちなのに、輪郭しか浮かばない。自分も、ユニも。あんなに大好きな彼女の顔が。見慣れた自分の顔が。なぜだ。
そう考えているうちに一つ理由を見つけた。
服装が想像できないのだ。
土曜日までは学校帰りだから制服姿。日曜日は私服だが、ユニはいつもGパンにTシャツ、紺色のカーデ、というシンプルな格好だった。それでも彼女は可愛らしかったが。他のバリエーションを見たことがない。ついでに言うと、自分も大して変わりがない。GパンにTシャツ、その上から綿シャツを羽織るか、薄いジャケットを持って行くか。こちらもバリエーションは少ない。
ソンジュンは自分の部屋のクローゼットをばん、と開けた。目の前にハンガーにぶら下がる自分の服達がある。洗濯した後は、スンドリがここに閉まってくれているのだが、あまり数は持っていないので、外出用のTシャツもハンガーがけのままだ。隅の方にはカッターシャツやスーツの上下が何枚か。これは両親とある程度の場に出るときのために必要なもので、ソンジュンが知らない間に用意されていたもの。いや、目の前にある服も、母が勝手に用意してくれたものでしかない。
母の趣味が悪いとは思わない。ソンジュンが見ても、上品で良く似合う服を着ている。ソンジュンはファッションに何の興味もないが、さすがに気にいらないものぐらいはあるから、母が選ぶものは嫌いではないようだ。ただ、一つ懸念があるとすれば、母は自分たちと世代が違うと言うことだ。つまり、今の流行では決して服を選んでいない。
もしかして、俺の服装は古くさいか?髪は美容院に行っているからそれなりだろうが。ちょっとまてちょっとまて。オープンキャンパスにそんな張りきった格好も変だろうが、あまりにも今に合わない格好もいやだ。大学生ってどんな服を着ているんだ?俺はまさかとても時代遅れなのか?
一瞬固まってしまったソンジュンは、おそるおそるいくつかの大学案内を検索した。大学の宣伝のために、学生が講義を受ける様子や学内にいる様子が画像に上がっている。それらを必死に目に焼き付けて、自分の持ち物と比べてみたソンジュン。
うん。持っているものでどうにかなる。とりあえず、TシャツをGパンの中にしまっちゃだめだということだけは分った。
その後、猛烈に気になったのは、ユニが当日どんな姿で現れるか、ということだったのだが、女性のファッションなど皆目分らないし興味もないソンジュンの想像は、ユニのシルエットから先に進むことはなかった。