草雲雀 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

《成均館時代、キム・ユンシクを女人だと知った後位の話》

 

 成均館はとても広い。

 常に人がいるのは、儒生達が暮らしている清斎や講義が行われる講堂近辺で、

 少し外れると誰もいないような建物や庭がある。

 

 考え事をしていたソンジュンは、いつの間にか人のいないところを選んでいたようだ。

 立ち止まったところで空を見上げ、さわやかな青空をぼんやりと眺めた。

 

 彼女はどうして男の振りをしてここにいるのか。

 

 本人が素性を隠しているから、はっきりした理由は分らない。

 けれど、今までぽつぽつと語られてきたキム家の事情をつなぎ合わせると、

 彼女が病弱な弟の代わりに世に出るしかなかった、ということになるのだろうことは分る。

 手の抜けない講義を受けながら、中二房で必死に筆写の仕事をしている姿からも

 実家の窮乏具合が分るというものだ。

 

 男のキム・ユンシクに劣情を持ってしまった、そう思い込んで

 ソンジュンは一時彼女の前から逃げた。

 成均館で身を竦める様にして生きている彼女にとって、

 親友だと思っていたソンジュンがいなくなったことはとても辛かったに違いない。

 だから、偶然なのか仕組まれていたのか分らない川邊での再会と、

 そこで怒った彼女の川への墜落事件のおかげで、彼女が女人と知れて

 ソンジュンが成均館に戻るきっかけを作ったのは良かったと言える。

 それはソンジュンにとってもだ。

 

 けれど、女人だと言うことを隠している彼女に、今できることは何もない。 

 ただ側にいて、少しでも辛いことからかばってやるしか

 ソンジュンにしてやれることはないのだ。

 

 そしてそれは、同室にいるジェシンでも、彼女を気にいって可愛がっているヨンハでもできる事。

 ソンジュンが成均館から逃げている間に、

 彼らはそれを立派にやり遂げていた。

 

 可愛らしい鳴き声に、ソンジュンは我に返った。

 小さな鳥が空から舞い降りてくるのが見える。

 その鳥は草むらに降りると、ちょんちょんと歩き始めた。

 

 雲雀だ。

 

 雲雀は、巣のありかを外敵に悟られないよう、

 わざと遠くに舞い降りて、草に隠れながら巣に近づくと言う。

 ソンジュンはその小鳥の不格好に歩く姿を目で追いながら

 彼女の姿を思い浮かべた。

 

 必死に学ぶ彼女。筆写の仕事を、寝る時間も惜しんでする彼女。

 彼女は家から遠く離れて家族を守っている。

 稼いだ金、貯めた保存食品、薬房から貰う薬を担いで

 都から離れた実家に向かう姿は、あの小鳥と同じだ。

 

 可憐な容姿を男装に隠し、周りを警戒しながら暮らす彼女。

 ソンジュンと浸食を共にするあの中二房でさえも、彼女の巣ではないのだ。

 自分は彼女に言ってやりたいのに。

 安心していい。君の味方だ。

 ここは君の居場所だ。

 そして。

 

 俺を君の隣にいさせてほしい。

 そして守らせてくれないか。

 ずっと、いつまでも。

 

 草が動きを止めた。

 雲雀が巣に到着したのだ。

 雛に餌を与えているのだろうか。

 まるで彼女のように。

 

 ソンジュンはそっと歩き出した。

 雲雀を驚かせぬよう。

 まだどうしていいか結論は出ない。

 けれど、彼女を守る、彼女から逃げない、そう決めたのだから

 やらなければならないのだ。

 彼女がおそらく決死の覚悟で決意して、

 小科の試験を受けたように。

 自分の巣を守る為に。

 

 雲雀のような小さな彼女に、

 俺は必ず温かな巣を捧げるのだ。

 

 さまよっていたソンジュンの足は、

 彼女が必ずいるはずの尊敬閣に向かって

 力強く踏み出されていった。

 

 

 

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村