わたしには弟がいる。
義妹と甥と、飛行機の距離で暮らしている。
なので父のことでは本当に負担をかけてしまった。
最初に父を病院へ連れていくとき以外、
ほとんどが予期せぬ出来事で戻ってきてもらったから、
仕事を突然休むことも、もちろん経済的にも。
ただ、そんなことがあったためか、
「母の介護については一任したい、ついては相続も放棄する」
それが彼ら夫妻の譲らない意見だった。
相続の件はともかく、彼が向こうでマンションを購入した時から、
わたしが両親のあれこれを引き受けることになるんだろうな、とは思っていた。
だから父のことも、日常的なものは連絡だけ取り合って、
わたしがキーパーソンとして動いてきたのはここに綴った通り。
父亡き後、一人暮らしとなった母のことは
100パーセント、彼に頼ってはいない。
と、いうのは前置き。
いよいよ相続登記に手を着けることにした。
今年度の固定資産税の通知書が来るまでにと、なんとなく決めていた。
まず最初に、母の印鑑を登録する。
父が亡くなってつくづく思ったのだけれど、
母は社会的に全く自立していない。
クレジットカードも家族カードしか持っていなかったし、
携帯電話のように個人的な契約も、すべて父名義だった。
個人番号についても知らなかった。マイナカードは知っていても。
自分の年金についても全く把握していず、年金手帳も不明。
…まあ、それは父のせいでもある。
母が社会化することを望まなかった節があるから。
笑っちゃうけど、それが父の愛情表現だったのかも知れない。
なので、印鑑登録=実印を持ってもらうことから始める。
今、わたしの仕事は春休みなので時間が作りやすい。
思い立ったが吉日、と、動き始めたのが3月下旬。
そして一連の流れを母に説明し、申請書、委任状などを揃えて
区役所に向かったのが4月1日。一年で一番窓口が混むかもな日。
予想通り、駐車場待ちで1時間、やっと庁舎に入るも
300人待ち、の順番カードを見て絶望し、翌日出直すことにした。
モバイルバッテリーを持ち、本を抱えて。
280人待ちで『昨日より20人も減った!』と無理やり喜んで5時間。
手続きは5分で終わった。
この後実家に照会書が届き、もう一度区役所に出向けば完了。
同時に司法書士を探した。
ウェブで良さそうなところ数件をピックアップ。
最初に問い合わせたところから、見積依頼に「名寄帳」が必要…ん?
なよろちょう?なよせ?なより?
この1年半、初めて覚える日本語がたくさん。
ネット検索すると、札幌市は市税事務所で閲覧できるらしい。
札幌的には「固定資産課税台帳」というのが正式らしい。
市税事務所があることも知らなかった。
父が道税の仕事をしていたから、道税事務所は知っていたけれど。
実家のある区を担当する市税事務所は、
わたしの職場から歩いて3分のところにあった。えーっ、いつから?
まあ、そんなこんなで名寄帳を取得し、
PDFにして三箇所の司法書士事務所へメール添付で送った。
最初に問い合わせた事務所が
いちばん丁寧に素早く対応してくれたのでそこに決めた。
金額的には最安ではなかったけれど、そういうことじゃない。
屋根の修理とか、訪問診療とか、ボイラーやエアコンの交換とか。
この1年でいろいろな見積もりを取ってみて、
見積書は金額を見るものではなく、
どれだけ信頼できる相手かを見極めるものだと知ったから。
多分これが、父の名前を使う最後の作業。