前回の記事[https://ameblo.jp/takayukiyasuda515/entry-12585182816.html]では,三種の基準の内容を確認しました。では,これを答案で示す場合には,どのように示せばいいのでしょうか。

【三種の基準を答案で示すとどうなる?】

■厳格な基準

目的が真にやむを得ない利益を達成するためであり,手段が目的達成のために必要不可欠といえる場合にのみ合憲となる。

■厳格な合理性の基準

目的が重要な利益を達成するためであり,手段が目的との関係で実質的に関連しているといえる場合には合憲となる。

■合理性の基準

:目的が正当な利益を達成するためであり,手段が目的との関係で合理的に関連しているといえる場合には合憲となる。

 

記憶しやすいようにさらにキーワード化しておくと,

■厳格な基準

・目的:真にやむを得ない利益

・手段:必要不可欠

■厳格な合理性の基準

・目的:重要な利益

・手段:実質的関連性

■合理性の基準

・目的:正当な利益

・手段:合理的関連性

 

という整理になります。

 

前回の記事では,かなり詳細に書きましたが,基準選択の理由を述べた後は,上記の簡略化したものを示せれば十分な合格答案となります。

 

【基準選択の方法は?】

■ 二重の基準論がスタート

まずは,「二重の基準論」を正確に押さえておきましょう。

二重の基準論とは,表現の自由や信教の自由など,精神的自由権の規制が問題になる場合には厳格な審査を行い,職業選択の自由や財産権などの経済的自由権の規制が問題になる場合には緩やかな審査を行うという考え方です[※1]。

 

二重の基準論自体は絶対的なものではなく,まずは,大きな方向性を考える上で役立つ考え方として整理しておきましょう。

■ 表現の自由の規制が問題になる場合

表現の自由の規制でも,様々な規制がありえます。ここでは,簡単に内容規制と内容中立規制について整理しておきます(詳しくは次回の記事で解説します。)。いずれの規制の厳格に審査を行いますが,内容規制か内容中立規制かによって,基準が使い分けられています。

 

公務員試験の専門記述対策としては,内容規制が問題になる場合は厳格な基準を用いると理解しておきましょう。一方,内容中立規制が問題になる場合には厳格な合理性の基準(LRAの基準)が妥当すると考えられています。つまり,同じ表現の自由に対する規制でも,内容中立規制のほうが一段緩やかな審査をすると考える見解が多数説といえます。そこで,専門記述もこれによっておきましょう[※2]。まずは,各自のテキストを用いて,なぜ,違憲審査基準を使い分けるのかを確認しておきましょう

■ 職業選択の自由の規制が問題になる場合

職業選択の自由の規制の場合には,上記の二重の基準論を前提にすると,緩やかに審査することになります。ただ,緩やかな審査といっても,規制目的は多様であることから,その目的に応じて審査基準の厳格度を変えるべきであるとする考え方があります。これを,「規制目的二分論」と読んでいます。この考え方が本当に妥当であるのか,また,判例がこれを採用しているといえるのかは,疑問を持つ見解が通説的な立場といえますが,公務員試験の専門記述対策としては,この「規制目的二分論」に基づいて論証できれば合格答案になるといえます。もっとも,問題によっては,この見解だけでは処理できないものもありえますので,次次回予定している「規制目的二分論との付き合い方」を参考に処理手順を確立させておきましょう。ここでは,規制目的二分論の復習をしておきます。

・消極目的→厳格な合理性の基準

・積極目的→明白性の原則(合理性の基準の中でも緩やかな審査基準)

 

以上のとおりなので,精神的自由権が問題になった場合には,厳格な審査基準(ないし厳格な合理性の基準[LRAの基準])を,経済的自由権が問題なった場合には,合理性の基準を(ないし厳格な合理性の基準)を採用することになります。

【まとめ】

精神的→厳格な基準

経済的→合理性の基準

 

ただし,厳格度にはグラデーションがあるので,規制態様や規制目的により,厳格度が緩和されたり,逆に厳格度を増したりすることになります。

 

今回の記事は少し難しい内容も含まれています。また,次回以降に積み残している部分も多いです。そこで,まずは,上記【まとめ】の部分を整理しておきましょう

 

【次回予告】

次回は,表現の自由の規制について,違憲審査基準をもう少し整理していきます。厳格な審査が行われますが,そのグラデーションがある部分を丁寧に整理していきます。

 

[※1]もっとも,経済的自由権として位置付けられている移動の自由は,他者とのコミュニケーションを取るための前提となったり,人身の自由と強い関連を有するので,経済的自由権に位置付けられているという一事をもって,緩やかな審査で足りるということにはならない点に注意が必要です。

[※2]内容規制が認められるのは,明白かつ現在の危険のテストをクリアできる場合に限るべきであるという考え方もあります。これによってもよいでしょう(内容規制は原則として認められないという観点からすると,この基準のほうが妥当だとも思いますが,試験対策の思考の整理のために,「三種の基準」で片付けられるものはそうしておきたいという試験戦略的な意味合いもあります。したがって,ここでは,上記「厳格な基準」を前提に解説しています。なお,集会の自由の規制が問題になる場合には,判例をベースに考えると,明白かつ現在の基準を参考に判示している泉佐野市民会館事件の判旨を活用していくことになりますが,これは別途解説いたします。)。

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