実行に着手したといえるかを判断枠組み

※〈〉内は、「早すぎた構成要件の実現」と呼ばれる事例を検討する場合

……という〈第一行為の〉段階で……罪の実行に着手したといえるか。

 

[※総論的基準]未遂犯が処罰される根拠は、既遂に至る客観的な危険性を生じさせた点に求められる。そうすると、実行の着手時期を構成要件該当行為を開始したと解した場合には、未遂の成立時期が遅くなりすぎる場合がある。一方、実質的に法益侵害結果が惹起される危険が生じたというように考えると、結果惹起の危険性は程度の問題があり、未遂処罰にまで至っているかどうかが曖昧なものとなってしまう。そこで、直接の構成要件該当行為と密接性があり、かつ、結果惹起に至る危険性が認められる行為を開始した場合には、実行に着手したといえると考えるべきである。

 

(早すぎた構成要件の実現と呼ばれる事例(クロロホルム事件)を論証する場合)〈このような密接性・危険性が認められるかどうかは、行為者の犯行計画を前提に、第一行為が第二行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったこと、第一行為に成功した場合にそれ以降計画を遂行する上で障害となる特段の事情が存在しないこと及び第一行為と第二行為が時間的場所的に近接していることを考慮して判断すべきである。〉

※ 判例の要約については徹底チェック刑法86頁参照。

 

離隔犯・間接正犯の実行に着手したといえるかどうかの判断枠組み

未遂犯が処罰される根拠は、既遂に至る客観的な危険性を生じさせた点に求められる。離隔犯の場合、既遂にいたる客観的な危険性を生じさせた行為と結果との間に時間的場所的な間隔があるため、一律に既遂に至る客観的な危険性を判断することは困難である。そこで、実行に着手したといえるのは、結果発生が確実になったといえる時点であると考えるべきである。

 

不能犯として実行行為性が否定されるかどうかの判断枠組み

……という行為は、客観的には結果を生じさせる危険性が認められるものではなかった。そこで、この行為は不能犯であるとして実行に着手したとは認められないのではないかを検討する。

 

未遂犯が処罰される根拠は、既遂に至る客観的な危険性を生じさせた点に求められる。この危険性の判断は、行為時に一般人が認識できたであろう事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎にして、行為時の一般人の法則知識を適用した場合に結果発生の危険が認められるかを基準に行われるべきである。

 

・本件では、行為時に一般人は……という事実を認識できたといえるから、これを基礎にして一般人の立場から危険性の有無を判断すると、……であるから……罪の結果発生の危険があるといえる(いえない)。よって、……罪の未遂罪が成立する(しない)。

 

・本件では、行為時に一般人は……という事実を認識できたであろうとはいえない。しかしながら、行為者は当該事実を認識していたものである。

 この認識を基礎にして一般人の立場から危険性の有無を判断すると、……であるから……罪の結果発生の危険があるといえる(いえない)。よって、……罪の未遂罪が成立する(しない)。

「中止した」といえるかどうかの判断枠組み

「犯罪を中止した」といえるためには、結果惹起の危険を除去することが必要である。このような危険を除去できたといえるかどうかは、中止行為時を基準として、行為者にどのような行為を要求すべきかを個別具体的に判断するべきである。

 

・本件では、中止行為時点の危険性が……という実行行為の遂行のおそれを内容とするものであるから、犯罪の継続を放棄する不作為で足りる。

 

・本件では、実行行為から独立して危険性が生じているため、当該危険を消滅させる積極的作為が必要である。

 

(他人の助力があった場合)もっとも、本件では……の助力により結果防止行為がなされている。それでも中止したといえるのかを検討する。

結果防止行為は、行為者自身が全て独力でしなければならないわけではない。しかし、その場合には、行為者自身が結果防止行為を行ったのと同視しうる程度の真摯な努力を行う必要がある。

※真摯な努力は作為の場合にのみ問題となる点に注意

中止犯の成立要件のうち「自己の意思」といえるかどうかの判断枠組み

中止犯が成立する場合に刑が減免される根拠は、自己の意思により中止したことによって責任が減少するからである。そうすると、「自己の意思により」といえるかどうかは、行為者本人がどう思って中止したかを基準に判断するべきである。したがって、行為者自身がやろうと思えばやれるのに中止した場合は中止犯が成立するが、やろうと思ってもやれないと考えて中止した場合には中止犯は成立しない。

本件では、……

中止行為と結果不発生に因果関係が必要かどうか

中止犯が成立する場合に刑が減免される根拠は、自己の意思により中止したことによって責任が減少するからである。そうすると、中止行為それ自体によって責任が減少したといえるため、中止行為と結果不発生の間の因果関係は不要であると解するべきである。

予備罪の中止

予備罪は、準備行為が完了した時点で既遂に至るものである。そうすると、予備罪には中止未遂の観念を入れる余地がない。したがって、予備罪には中止犯の成立は認められない。

 

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