1 実体的違法事由

⑴ 規則11条の要件に該当しない

 本件処分は、規則11条の「指定工事店が条例又はこの規則の規定に違反したとき」には該当しない。

 本件処分は、Aの従業員であるCが、乙市に知らせることなく本件工事を施工していることを理由に行われているが、この行為は、Cが、休日に、自宅の下水道について浄化槽を用いていたのをやめて、乙市の公共下水道に接続したものであって、Aの事業としておこなったものではない。また、Cは、Aで工事の施工に従事するものであって、役員でもないことから、この行為をAの行為とみることはできない。そうすると、Aが「条例又はこの規則に違反した」わけではないため、規則11条の要件に該当しない。

⑵ 比例原則に違反している

 仮に、Cのおこなった行為が規則11条の要件に該当するとしても、Aに対する指定の取消処分は比例原則に反する。

 まず、規則11条に基づく処分に裁量が認められるのかについて、同条は、条例等に違反したときは、「指定を取消し、又は6月を超えない範囲において指定の効力を停止することができる」と定めている。これは、条例等の違反があった場合に、事案ごとに適切な処分を行わせるために、処分をするかどうか、また、処分をするとしてどのような処分を選択するのかについて市長の裁量に委ねる趣旨であると解される。よって、11条の取消処分又は停止処分に関しては、市長に裁量が認められる。

 処分について裁量が認められる場合には、裁量権の逸脱・濫用がある場合に限り取り消される(行訴法30条)。処分が目的に比して重い場合には、比例原則に反し、裁量権の逸脱・濫用があったものというべきである。

 本件で工事を施工したのはCである。しかも、Cが、「休日」に本件工事をおこなっている。そうすると、Aが組織的に違法行為をおこなっていたものではない。また、Aは、「本件処分以前には、本件条例及び本件規則に基づく処分を受けたことはなかった」ので、違法行為の再発を防止するのであれば、行政指導や取消処分よりも不利益性の低い効力の停止でも目的を実現できる。

 そうであるにもかかわらず、市長は、選びうる手段のうち、最も重い取消処分を選択しているのであって、これは比例原則に反する。よって、本件処分は裁量権の逸脱・濫用があるといえるから、取り消されるべきである。

2 手続的違法事由

⑴ 本件処分は、条例に基づく処分であるから、行手法は適用されない(行手法3条3項)。もっとも、行手条例が施行されているので、本件処分の手続に関して行手条例に違反しているかを検討する。

⑵ 本件処分は、Aに対する指定工事店としての指定を取り消す旨の処分であるから、「法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に」「権利を制限する処分」であるから、「不利益処分である」(行手条例2条4号本文)。また、本件処分は、「許認可等を取り消す不利益処分」であるから、「聴聞」の手続を行わなければならない(行手条例13条1項1号イ)。

 しかしながら、本件においては、「事情説明以外には、意見陳述や資料提出の機会を与えられなかった」のであるから、聴聞手続が行われていない。したがって、違法事由として、行手条例13条1項1号違反がある旨を主張すべきである。

⑶ 次に、本件処分は不利益処分であるから、処分をする際に理由を提示しなければならない(行手条例14条1項本文)。理由の提示の趣旨は、行政庁の恣意を抑制するとともに、処分の名宛人に対する不服申立ての便宜を図る点にある。そうすると、理由の提示が十分であるといえるためには、理由の記載自体から了知できる程度に処分に至った理由が読み取れなければならない。

 本件は、「本市市長の確認を受けずに、下水道接続工事を行ったため。」とのみ記載されている。この記載をみても、条例又は規則の何条に違反したのかを読み取ることができない。また、規則11条は、取消し又は効力の停止ができると定めているが、今回の理由の記載をみても、なぜ「取消し」という処分が選択されたのかを読み取ることができない。

 したがって、本件の理由の提示は、理由の記載自体から了知できる程度に処分に至った理由が読み取れるものではない。よって、違法事由として、行手違法14条1項本文に違反している旨を主張すべきである。

⑷ 上記の行手条例違反が取消事由となることについて、下記のとおり主張すべきである。

 行手条例は、住民に対して、適正な手続を受けた上で処分を受けることを保障するものである。そうすると、行手条例において法的義務として定められている手続に瑕疵があった場合には、当該瑕疵は取消事由になると解するべきである。

 本件では、行手条例の13条1項及び14条1項に違反するものであるが、これらは法的義務として定められているので、当該瑕疵は取消事由となる。

※2023/04/24演習年パス講義時に画面共有しながら作成したもの。喋りながら打ち込んだものなので表現に不自然な部分が残っていますが、ひとまずそのまま共有しておきます。