本日は,設問27の答案例をアップします。

【答案例】

第1 想定されるXの主張

1 契約締結の自由を侵害している

⑴ 利益供与禁止規定により,Xは,暴力団であるAと契約したことにより,公表等の不利益を被っている。これは,契約の相手方を自由に選ぶことができるという契約締結の自由を侵害しているため違憲である。

⑵ 憲法22条1項および29条において,営業活動の自由や,財産権の行使等の経済的活動を憲法上の権利として認めている。それゆえ,企業者は,このような経済的活動の一環として,契約締結の自由を有している。

  そうであるにもかかわらず,利益供与禁止規定により,相手方の選択に制約を付されているから,契約締結の自由を侵害するものである。

2 暴排条例の禁止する「利益供与」の内容が曖昧不明確である

 条例は,「利益供与」を禁止する旨を規定しているが,その内容が不明確である。ある行為を規制する規定が明確かどうかは,通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるかどうかによって決定するべきである。ところが,本条例の定める「利益供与」は,結局の何を規制しているのかが読みとれないため,不明確であるため,違憲である。

3 暴力団の結社の自由を侵害している
 事業者から暴力団への利益供与が禁止される結果,暴力団は日常生活に必要な物品の調達や,サービスの提供を受けることができなくなる。そのため,団体として存続することが不可能となってしまう。よって,暴力団の結社の自由(21条)を制約するものである。

第2  Y県側の主張

1 契約締結の自由侵害の点について

 契約締結の自由が保障されているとしても,どのような内容の契約でも締結できるわけではない。例えば,公序良俗違反により契約が無効となる場合がある(民法90条)ように,契約自由の原則も修正されることがあり得る。このように,契約締結の自由も無制限に保障されるわけではなく,ある契約が締結されることにより,社会秩序を維持できなくなってしまうような場合には,契約自由の制限は制限される。

 契約締結は,経済活動には必須の行為である。これを制限することになると,経済活動に大きな影響を与えることになる。その制約が合憲かどうかの判断は慎重に行われなければならないことは否定できない。契約締結の自由を制限できるのは,制限の目的が重要な利益を達成するためであり,手段が目的との関係で実質的に関連しているといえる場合には,契約締結の自由を制約できると考えるべきである。

 本件利益供与禁止規定の目的は,暴力団に対する経済的な利益を遮断し,暴力団の活動を弱体化させることをもって,社会秩序の維持を達成しようとする点にある。暴力団の弱体化は,暴力団の関与する犯罪の減少に繋がため,国民の安全を守ることに直結する。よって,重要な利益であるといえる。

 次に,これを達成するための手段として,利益供与を行った場合に「公表する」とされているが,公表によって,当該企業が暴力団に対し利益供与をしたということが世間に知らせられることになり,企業の信用に直結するものである。とすれば,このような公表を避けるために,各企業は,利益供与しないように慎重に取引を行うようになる。よって,目的達成のために寄与しているといえる。

 また,「公表」という手段は,刑罰を科したり,事業活動そのものを禁止したりするものではない。よって,必要最小限度の手段を講じているといえる。                            

 以上のとおり,利益供与禁止規定は,重要な目的を達成するためであり,採用された手段が目的と関係で実質的に関連しているといえる。それゆえ,合憲である。

2 明確性の原則は問題にならない

 Xは,「利益供与」の内容が不明確である旨を指摘するが,利益供与を行った場合の制裁としては「公表」が予定されているに過ぎない。そのため,刑罰法規の明確性が問題になっているわけではないため,法文が不明確であったとしても,憲法31条違反にはならない。

 また,表現の自由が規制されているのであれば,不明確な法規によって表現が萎縮されるがゆえに,明確性の理論により当該法規を違憲と考えるべき場合もある。しかしながら,本件で問題となっているのは,契約締結の自由である。それゆえ,憲法21条の問題にもならない。よって,明確性に関するXの主張は,その前提を欠いている。

 仮に,法文が明確ではないことを問題にできたとしても,本件においては,当局からの勧告がなされているのであるから,通常の判断能力を有する一般人の理解において,本件契約の締結が「利益供与」に該当することは理解することが可能である。よって,Xが明確性の原則違反を理由に違憲の主張を行うことはできない。

3 暴力団の結社の自由を制約するという点について

 Xは,暴力団の結社の自由の制約を問題にするが,Xは暴力団ではない。訴訟は,自己の権利を実現するための手段である。それゆえ,第三者の憲法上の権利を主張することは原則として認められず,他者が自らの権利を主張することに困難な事情がある場合,他者と訴訟当事者の間に特別の関係がある場合,萎縮的効果を忌避しなければならない表現の自由の制限が問題になる場合には,第三者の権利を援用することが認められる。

 これを本件についてみると,Aが自らの権利を主張することに困難な事情は認められない。また,XとAは,幼馴染の関係にはあるが,それ以上の関係にはない。さらに,本件では表現の自由の制限が問題になっているわけではない。

 したがって,XがAの結社の自由を援用して違憲の主張を行うことはできない。

【復習ポイント】

  • Y県側の主張を考える前提として,X側の主張に軽く触れる必要があります。ここをいかに簡潔にまとめるのかがポイントです。

  • 契約締結の自由に関して,答案例では三菱樹脂事件を念頭に置いて22条,29条を列挙していますが,「契約自由一般の法的根拠は,憲法13条に求めることになろう」(テキスト213頁)ということなので,これは知識として押さえておくとよいでしょう。

【参考資料】

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※解説講座はこちらから。→事例問題憲法講義(BEXAのHPへ飛びます)

 

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