炊かれる米に罪はない 2/12 | no title

no title

高をくくる

 

僕は梅田の地下街を走っていた。

相も変わらず黒いコートを着て走っていた。

 

ボランティアの依頼とはいえ、9時に神戸に着かないといけないとは中々苦しいものがある。つまり7時には色々と準備をして家をでないといけないわけだ。朝ごはんを食べるし、男性であるから髭もそる。髭を剃るなら顔も洗おう。髪の毛に一応ドライヤーをあてておこう。そうしている間に時間はギリギリだ。

 

しかし遅刻するわけにはいかなかった。遅刻は信用に関わりかねないし、その後の言動には信憑性が薄れるというものだ。それは心的距離が遠ければ遠いほどに重要な話であるように思われた。

 

というわけで冒頭に戻る。僕は梅田の地下街を走ってJR線に向かい、向こうの駅で精算すればいいか、という思いで120円切符を買ってホームへ駆け上がった。電車の時間を知らせる電光掲示板を見ると、「3分遅延」となっている。本当にギリギリであった。

 

僕は電車に乗るために並んでいたのだが、電車が着いた瞬間斜め後ろから思い切り抜かしてくる中年男性女性たち、君達には常識がないのか。中年の全てが良いわけではないのだから、中年に「最近の若者は……」などと一括りにする権利はない、そんな気がした。むしろ大学生の目には中年男性の蛮行の方が目立つ。

 

快速の電車の座席は、各駅のものとは違って少しだけ快適に出来ている。2人シートが対面になっているものだ。僕は空いていたので底に座ってパソコンを立ち上げた。すると、なにかのグループなのか老人が大量に座ってきて、僕は包囲されてしまった。老人の中に1人パソコンを立ち上げている私……。しかし中年とは違って老人には常識がないわけではない。唯一文句があるとすれば身を乗り出して会話をしているため、僕にがつがつ当たっているということだろうか。

 

しかし、こんなどうでもいい話をこんなに細かく描写して何の意味があるのだろうかと思う。

 

僕は目的地に着いた。既に監督さんと女優さんとアシスタントさんは揃っていた。挨拶し、撮影現場に向かった。店は10時開店でまだ開いていなかった。手順が悪いのか、店が悪いのか。寒空の中、色々してみる。

 

開店した。手狭なお店だったが、店の人が随分と良い方で、部屋の配置を滅茶苦茶にしたり、飾り物を壊したりしても平気そうな顔をしていた。撮影は6時間以上にも及んだが、シーン的には恐らく2分くらいしかなかったと思う。僕は役割を果たした後は暇だったので、猛烈な眠気に襲われた。机に頭をぶつけて起きた。失態である。遅刻しなかったぶんをオーバする程の失態だっただろう。とはいえ、僕は途中からライトを持ったりと、賃金も貰ってないのにアルバイトのようなことをしていた。

 

帰りの電車でLINEを見ると珍しく母から「米炊いといてあげる。何時に炊き上がりがいい?」と尋ねられていたので、僕はそれに答えた。

 

帰宅して炊飯器をあけると……米は水に浸かっていた。

炊いていなかった。