「さびしんぼう」
原作は、山中恒「なんだかへんて子」。「さびしんぼう」は大林監督の造語ですが、「さびしんぼう」のシナリオはいくつも作られ、そのヒロイン候補も様々に変遷していました。
尾道の「西願寺」というお寺の息子井上ヒロキ(尾美としのり)君は、カメラ好きの高校生。父親で住職の道了(小林稔侍)さんは、無口で何を考えているのか、お経を唱えてばっかりだし(当たり前だ)、元気のいい母親のタツ子(藤田弓子)さんは、口を開けば「勉強しろ」ばっかりだし、なぜか、ショパンのピアノ曲「別れの曲」を弾くことを強要します。
ヒロキ君が秘かに片想いしているのは、近くの女子高を望遠レンズで眺めていたときに出会った、放課後必ず音楽室でピアノを弾いている少女(富田靖子)。名も知らない少女だけれど、弾いている曲はわかる。ショパンの「別れの曲」だ。ヒロキ君は、彼女を「さびしんぼう」と呼んで、ファインダー越しの彼女を眺め続けていたのでした。その彼女が通学する姿を偶然見かけ、フェリーで島から通っていることを知ります。
ある日ヒロキ君は、フィルム代を稼ぐために、悪友の大山カズオ(大山大介)、田川マコト(砂川真吾)を誘い、寺の本堂の大掃除のアルバイト。そんな時、母親のアルバムを落とし、写真が風に吹かれてばらばらになってしまいます。
すると、ヒロキ君の目の前に奇妙な格好をした女の子(富田靖子)が姿を見せるようになりました。
彼女は、16歳、高校2年だといい、「さびしんぼう」と名乗ります。彼女は、母親タツ子さんをなじり、パニックにさせてしまいます。
正月にタツ子さんの高校時代の親友、雨野テルエ(樹木希林)さんが娘ユキミ(小林聡美)さんを連れてたずねてきたときにも、テルエさんが「でべそのおテル」「0点おテル」だったことを暴露し、大喧嘩になってしまいます。
節分の日、ヒロキ君はすばらしい場面に出くわします。自宅前で、憧れの彼女の自転車のチェーンが外れて、途方にくれていたのです。自転車を直せなかったヒロキ君は、自転車を届けてあげることにし、彼女と一緒にフェリーに乗ります。
ヒロキ君は、音楽室の彼女を見つめ続けていたことを告白します。彼女は、橘百合子といい、彼女も一度ヒロキ君を見かけたことがあるといいました。
幸福の絶頂のヒロキ君は翌朝、フェリー発着所で百合子さんがやってくるのを待ち、声をかけますが、無視されてしまいます。呆然とするヒロキ君。
バレンタインデーの日。「さびしんぼう」がくれたプレゼントを開けると、中にはチョコレート。チョコアレルギーのヒロキ君は放り出してしまいますが、「さびしんぼう」がいうには、自宅前においてあったとのこと。
中に入っていた手紙の送り主は百合子さんで、「この間は、ありがとう、うれしかった。でもこれきりにして下さい」と記されていました。
「この人が、ヒロキさんの本当の『さびしんぼう』なんだ」という、「さびしんぼう」に、「悪いけど、ひとりにさせてくれないか」というヒロキ君。
「いいよ、もうお別れだから」と、答える「さびしんぼう」。
驚くヒロキ君に、「さびしんぼう」は、「明日は17歳のわたしの誕生日、わたしは16歳のわたしだから」と言い、この格好は創作劇の舞台衣装なんだと語ります。その創作劇は「ある女の子が男の子を好きになって、その恋はうまくいかなかったのだけど、女の子はその人と最後に弾いてくれたショパンの『別れの曲』を決して忘れなかった。女の子は平凡な結婚をするが、好きだった男の子そっくりな子供を産み年老いていく・・・」というお話しでした。
失恋をして、涙を流しながら「別れの曲」を弾くヒロキ君。「かあさんの『さびしんぼう』って、どんな人だったの?」
風呂の中での父親との会話、「好きになれ、その人の喜びも悲しみもみんなひっくるめて好きになれ」と告げる道了さん。
その夜、渡せなかったクリスマスプレゼントを渡すため、百合子さんの元を訪ねるヒロキ君。それは「別れの曲」のピアノのオルゴールでした。
「あなたが好きになった側だけ見ていて、反対側は見ないでください」と言って走り去る百合子さん。リボンがポトリと落ちます。
降り出した激しい雨の中、「さびしんぼう」は、ヒロキ君を待ち続けていました。水にぬれると死んでしまうのに・・・。ヒロキ君に抱きしめられて、「ヒロキさん、わたし、ヒロキさん、大好き・・・」
雨のなかの別れは、ただただ涙😭ですね。
翌朝、42歳の誕生日を迎えたタツ子さんは、寺の前の階段で、水にぬれた写真を見つけます・・・。
ひとがひとを恋うるとき、
ひとは誰でもさびしんぼう
になる―
ああ、いいなあ。おーい、さびしんぼう
ドタバタ劇で笑っているうちに、甘く切ない青春恋物語に・・・。「別れの曲」と、切ない、心温まる、わたしの宝物。
当初は、富田靖子さんのアイドル映画だったのでしょうが、大林宣彦監督が長年温めてきた「さびしんぼう」として「転校生」に続き山中恒さんの原作を脚本化、尾道三部作の第3弾、大林さんの分身とも言える尾美としのりさん主演の映画となりました。
この作品、黒澤明監督のお気に入りだったそうな。
わたしにとっても、この作品は最高傑作であります。
